『バーフバリ』などの娯楽大作だけじゃない “小さな人間ドラマ”を描くインド映画の新潮流
日本で劇場公開された『めぐり逢わせのお弁当』の精妙なドラマも記憶に新しい。こちらの舞台は大都市ムンバイ。冷たい夫の態度を変えるために弁当作りに精を出す主婦イラが、配達の手違いで初老の勤め人サージャンと弁当を通して次第に心を通わせていく、ほのかなラブストーリーだ。大量の弁当が配達されていく様だけでも目に楽しいが、これは実際にインドに存在するシステムらしく、誤配送が起きる可能性は極めて低いという(約600万分の1とのこと)。だからイラとサージャンの出会いはある意味「奇跡」、もしくは「運命」のようなものだが、映画は大仰な演出を控えてじつに静謐なタッチでふたりの交流を描く。そこで浮き彫りになるのは、自由がなく家に閉じこめられている主婦としてのイラ、妻を亡くし仕事に没頭することで日々をやり過ごしているサージャン、それぞれの孤独だ。これもおそらく現代インドにおけるリアルな人物像であり、だからこそ、ふたりの恋の予感に観客は静かな胸の高鳴りを覚えるのである。
やはり本作が初長編作となったリテーシュ・バトラ監督はその演出力の高さを買われ、『ベロニカとの記憶』、『夜が明けるまで』とインド国外に進出することになった。『めぐり逢わせのお弁当』がヨーロッパでヒットを記録したことも後押しになったようだ。イラとサージャンの孤独は、住んでいる国に関係なく多くのひとが共感するものだったのである。
これらの作品に共通するのは、インド固有の問題や背景を丹念に描くことで、かえってその普遍性を高めているということだ。こうしたありようは、ボリウッド発娯楽大作のような派手な演出や舞台装置の特殊性とは大きく異なっていると言えるだろう。インドというときわめてユニークな国だというイメージが強いし、様々な側面で実際にその通りではある。しかしながら、そこで生きる人びとの姿や心の動きがわたしたちも共感しうるものだと、これらの小さな人間ドラマは伝えてくれるのだ。
■木津毅(きづ・つよし)
ライター/編集者。1984年大阪生まれ。2011年ele-kingにてデビュー。以来、各メディアにて映画、音楽、ゲイ・カルチャーを中心にジャンルをまたいで執筆。編書に田亀源五郎『ゲイ・カルチャーの未来へ』。
■公開情報
『ガンジスに還る』
公開中
監督・脚本:シュバシシュ・ブティアニ
出演:アディル・フセイン、ラリット・ベヘルほか
配給:ビターズ・エンド
2016年/インド/99分/カラー・シネスコ
(c)Red Carpet Moving Pictures
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/ganges/
『バジュランギおじさんと、小さな迷子』
2019年1月18日(金)新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー
出演:サルマン・カーン、ハルシャーリー・マルホートラ、カリーナ・カプール、ナワーズッディーン・シッディーキー
監督:カビール・カーン
配給:SPACEBOX
原題:Bajrangi Bhaijaan/2015年/ヒンディー語/シネスコ/5.1ch/159分/映倫G
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公式サイト:Bajrangi.jp
公式twitter:@Bajrangi_movie