『バーフバリ 王の凱旋』は歴史に残る娯楽超大作だーー黒澤明やジョージ・ルーカスの精神を受け継ぐ

『バーフバリ 王の凱旋』が傑作となった理由

 映画大国インドで歴代興行収入1位に輝き、さらに全米で週末興行成績3位を獲得するという大快挙を達成したインド映画、『バーフバリ 王の凱旋』。本作は、通称「ボリウッド」とよばれるムンバイ(ボンベイ)のヒンディー語映画ではなく、南インドのテルグ語、タミル語映画であり、インド映画の懐の深さを物語っている。

 実際に本作を鑑賞すると、その前評判の高さをはるかに凌駕する、あまりにも激烈な面白さに驚愕してしまう。娯楽の王道も王道、いや、それを超えて、もはや“天道”を往く作品だ。興収データはもちろんだが、これはむしろ、内容の面で歴史に残るべき傑作である。まだ本作を見ていないのならば、すぐさま劇場に駆け込んでほしい。趣味趣向が多様化する現代において、ここまで年代性別問わず多くの観客が楽しめ、それでいて一つ一つの表現が極度に洗練されている明快な娯楽作品は、近年なかったのではないだろうか。

 音楽や舞踊に始まるインドの芸能文化には9つの感情表現があり、映画でもそれらの表現を文法的に利用し、様々なスパイスをブレンドするかのように鮮烈かつ複雑な、いわゆる「マサラムービー」をかたちづくる。本作は、その全てのスパイスが投入された、まさに黄金のインド映画である。とはいえ本作の面白さというのは、それだけでは到底、説明がつかない。ここでは、『バーフバリ 王の凱旋』の面白さの理由を、できる限り深く追求していきたい。

 本作『バーフバリ 王の凱旋』は、『バーフバリ 伝説誕生』の続編となる。この2部作は東洋版『指輪物語』といえるような、神話や史実から練り上げたオリジナルのファンタジックな戦記物語だ。本作のS・S・ラージャマウリ監督によって、脚本家である父親の助けを得て書かれたものなのだという。

 『伝説誕生』では、心優しく武芸に秀でた青年シヴドゥの旅と戦いが描かれる。シヴドゥは、最強の老剣士カッタッパと出会い、自分の出生の秘密を教えられる。そこから映画は、カッタッパが語る回想の物語へと移行していく。それは、インド南部の大王国マヒシュマティの王子、アマレンドラ・バーフバリが成長し、卑劣な裏切りに遭うまでの物語だ。

 驚愕させられるのは、その回想シーンの長さである。本編の3分の1以上が回想という、非常に珍しい構成なのだ。『伝説誕生』は、その回想の途中で終わってしまう。本作『王の凱旋』では、その回想の途中から始まり、なんと終盤近くまで過去の物語は続いていく。「それはもう回想じゃなく、メインじゃないか!」と思ってしまうが、この作中の語り部による叙述形式は、世界最大といわれるインドの神話的叙事詩『マハーバーラタ』にもみられる。そういった古めかしいスタイルが、本作に歴史的な雰囲気を与えているといえる。

 『王の凱旋』では、バーフバリが素性を隠し、身をやつして宮殿に住み込み、王国を救って王族の女性を妻に娶るエピソードや、親族の骨肉の争いに巻き込まれていく様子が描かれるが、これらも『マハーバーラタ』に書かれている物語に近い。それだけでなく、英国最古の文学『ベオウルフ』の英雄譚や、ディズニーアニメ『ライオン・キング』など、西洋的な物語もミックスされているように感じられ、本作の物語は、より現代的なものとして観客の心に響くものとなっている。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる