『大恋愛~僕を忘れる君と』インタビュー
ムロツヨシが語る、『大恋愛』で掴んだチャンスへの喜び 「あがき続けてきました」
「尚と真司の間に流れている時間を意識して演じています」
――今回、演じている真司とムロさんは重なる部分も多いですよね。
ムロツヨシ:でも僕より真司のほうがすごいんですけどね。真司は21歳のときに、小説という自分のやりたいことで賞をもらっていますから。要するに一度、光を浴びているわけです。僕の場合は、28歳のとき全国公開の映画に出るまでは、光に当たっているなんて思ったことがなかったので。それでも真司は小説、僕はお芝居。本当はやりたいことがあるのに、本業はできなくなってしまった人、という意味では一緒です。それから真司は引越しのアルバイトしかしてない。僕も肉体労働のアルバイトしかしていない時期もありました。引越し、建設現場、コンサート会場の設営・撤去もしましたね。そういう重なりが照れくさいというか、やだなーって。思い出すことがたくさんあるので。
ーーあけたくない記憶のトビラが開いてしまうような?
ムロツヨシ:そう! だから真司の悶々とした気持ちはすごくわかりますよ。真司は光を浴びた後、次に書いた小説が酷評されて何もできなくなってしまったわけですけど、僕も自分で脚本を書いて演出した舞台が、全くお客さんに届かず、届かないどころかもうなんかすごい訳分かんない時間を過ごさせてしまったという自覚から、真司のように“何もできない時間”に突入しましたから(笑)。書きたいものがないと諦めている真司と、いつか芝居だけで食べていけるようにもがいていたムロと。今42歳で、書きたいものが見つかる真司と、色んな人のおかげでこの役にたどり着いたムロと。重なるところはありますね。
ーー今回、撮影現場を見学させていただいて、ムロさんが真司の人間性をつかもうと丁寧に議論を重ねている姿がとても印象的でした。
ムロツヨシ:そういうふうにみていただけるのはありがたいですね。今回、大石さんが書いてくださっている脚本が、すごく深いといいますか、何通りにも考え方ができるなって思う場面が多々あるんですよ。今日撮影したシーンは、こういう考え方もできるな、ああいう考え方もできるなって、僕の中では3層くらい真司の考えを想定していたんですが、監督の演出プランとか、考えや、解釈を聞いていたら、「あ、確かに、そういう考え方もできるな」って、どんどん層が広がっていって……本音を押し殺して反対のことを言っていたり、反対のことを言っている振りして本音だったり。正直言うと、(身をよじらせて)「もー! わっかんなくなっちゃったなー!」みたいな(笑)。時間をかけさせてもらって恵梨香ちゃんには申し訳ないなと思いながら。でも、それくらいすごく重要なシーンだったので。僕にとっては今日大きな1日でしたね、いい意味でドッと……。
ーー疲れが?
ムロツヨシ:はい〜! アハハ、いやでも、疲れたからイヤっていうわけじゃなくて。あんまり考えたことのない脳を使ったんじゃないですかね。
ーーありますよね。脳みその筋肉痛といいますか。
ムロツヨシ:そう! そこに使うべき脳があったか、みたいな(笑)。ただ今回、そういう話ができるというか、スタッフさんには現場が少し止まってしまうんで、申し訳ないですけど、ちゃんと確認して共通項を持って、あるいはあえて共通項を持たず、監督がきたらこう返すみたいな、こんなやりがいのある現場はないですね。重いシーンがより重みを増すのは、その前にどれだけ笑えるシーンがあるかにかかっていると思うので、恵梨香ちゃんと真面目なシーンじゃないときは、あえて明るすぎるくらいふざけたりもします。尚と真司の関係性を作るためにも。
ーーなるほど。真司の佇まいを見ていると、私たちがイメージしているムロさんよりも、少し声のトーンが抑え気味に感じるのですが、真司を演じるにあたって意識しているところはありますか?
ムロツヨシ:あえて低い声を出そうとかはしていないですね。台本を読んで、セリフを覚えたときに、自分がやってくれていることなので、そういうことなんだろうなと思いますけど。ドラマの撮影は一発本番ではないので、テストを重ねて……“落とし込める”って言葉を今回の役に関してはよく使うんですけど、すんなり落とし込めたら、そのまま怖がらずにいくべきだし、落とし込めないでいるんだったら少しやり方を変えたりとか。もちろん、それは、声ひとつかもしれないし、姿勢、目線、言葉の捉え方、相手のことをどう思ってるか、この時間、この瞬間は……って。これは、テレビドラマのスケジュール上、仕方がないことなんですけど、今は3話、次は4話ってシーンを混ぜこぜに撮らなければならなくて。でも、このドラマでは時間軸がとても大事なんですよ。この時間の後だからすごく盛り上がってる、この時間が流れたから落ち着いている、この時間を経たから好きだけどこういう感情になっている、とか。真司単体の“らしさ”よりも、尚と真司の間に流れている時間を意識して演じていますね。
ーー第3話の予告映像で話題になっている、尚が真司のホクロを押すと変顔になるというシーンは、おふたりが「実際にやっていた」と戸田さんがインタビューでお話していました。
ムロツヨシ:アハハ。前にやられた記憶があったので、台本を読んだとき“あら!”って思ったんですよ。どうやら噂によると、恵梨香ちゃんが大石さんに言ったみたいですね。脚本家として大石さんが即採用されたのなら、それはいいんです。ただ、発信元が戸田恵梨香っていう疑惑の眼差しはありましたね(笑)。だって、無茶振りもいいとこですよ。“尚、真司のホクロを押す。真司、変顔する”って、ト書きはたったの2行さ! でも、こっちは笑わせるために何行分も考えていくわけですから! まあ、自分の好きな人を、自分のことを好きでいてくれる人を笑わせるっていうシーンは、いいなと思ったので、なんの文句も言わずにやりましたよ。ただ、ト書き2行か、ってね(笑)!
ーーはい、心して観ます(笑)。第1話からアップルパイや黒酢はちみつドリンクなどのアイテムが登場していますが、何か物語のキーとなるのでしょうか。
ムロツヨシ:それ気になっている人、多いみたいですね。第1話の感想を見たとき、けっこう「フックになってるんじゃないの?」ってコメントを見かけました。大石さんが何か引っかかるようにしているのかな……。でも、演じ手が“これ、引っかかるとこやで?”、“アップルパイ、くるで〜!”みたいな顔してたら変でしょう(笑)? 昔から一緒にやってくれてる衣装さんが、真司と尚の服を象徴的な色にしてくれたり、監督やみなさんがいろんな演出プランを考えてくれているのは知っているので、そういう部分はお任せして僕は演じ手に徹していようと思います。だから、さっきの冗談じゃないですけど“これがドラマのポイントやで〜?”なんて変な意識をせずに、恵梨香ちゃんと向き合っていこうと。じゃないと、イチャイチャも複雑な心情の変化も描けないと思うので。