徳永えりのアラサー女性像が生々しすぎる 『恋のツキ』随所に散りばめられた“恋の尽き”を紐解く
『恋のツキ』のツキとは、ガチャガチャでレアが出た時のような「運が巡ってきた」という意味のツキであり、月という意味のツキであり、もしかしたら終わり、「尽き」という意味のツキに行き着くのかもしれない。このドラマの球体や水、赤色は多面的な意味を持つ。両手一杯の花びらを空に投げてうっとりした直後に月に1度来る下腹部の鈍痛に呻く、恋という幻想と生々しい女の心情。怖いものみたさで観るのもよし、ヒロインと一緒に感情の海に流れ込んでしまうのもよし、それはあなた次第だ。
テレビ東京の木ドラ25枠で放送中の『恋のツキ』である。原作は現在も連載中の新田章『恋のツキ』(講談社)。監督は多くのミュージックビデオやCMなどの映像を手がけている森義仁、『100万円の女たち』(ともにテレビ東京系)を手がけた桑島憲司、先週放送の第8話以降これからの数話を担当することになる平成生まれの若手女性監督、酒井麻衣と松本花奈と、それぞれの放送回の違いを感じるのも楽しい。『わろてんか』(NHK総合)など複数の朝ドラをはじめ様々なテレビドラマで好演し、名バイプレイヤーと注目されていた徳永えりが、こちらがたじろくほど生々しいアラサー女性の生態を大胆かつリアルに演じている。また、映画『勝手にふるえてろ』でも順当に行けば結婚できそうな、平凡だが愛すべき男性役を好演していた渡辺大知(黒猫チェルシー)、『この世界の片隅に』(TBS系)でも光っていた伊藤沙莉はじめ、ヒロインを囲む出演陣も実に魅力的だ。
平ワコ(徳永えり)、31歳。就職、結婚、出産と、家族、友人、彼氏含め周囲が口々に急かしてくる。順当に行けば結婚、安定した生活が望める、4年付き合って同棲している彼氏・ふうくん(渡辺大知)がいるのにも関わらず、バイト先の映画館で出会ってしまった「好みの顔面」の高校生・伊古ユメアキ(神尾楓珠)への恋に溺れていく。
第6話のタイトルが「台風クラブ」であるのは、やはり相米慎二監督の映画『台風クラブ』(1985)からだろう。台風の接近とともに何かがおかしくなってしまった少年少女たちの数日間を描いたこの映画は、プールで始まり、豪雨と少女、水溜りの上を白い下着姿で歌い踊る少年少女たち、さらには水の中に直立した1人の少年の死と、一度観たら忘れられない“水”に囚われたかのような青春映画である。『恋のツキ』の「台風クラブ」は、台風の日に閉館する、ワコの働く映画館「イデヲン座」の最終上映中、映画の音と色彩が洩れる部屋で、一度は避けようとした伊古に抱かれてしまうワコの説得力のない言い訳だ。真剣な伊古の眼差しに思わずスカートをギュッと握り締めてしまった。「好き」と言ってしまった。その全ては台風のせいなのだと。