徳永えりのアラサー女性像が生々しすぎる 『恋のツキ』随所に散りばめられた“恋の尽き”を紐解く

『恋のツキ』徳永えりの生々しさ

 伊古とワコの恋を取り巻くのは、2人が好きな映画『感情のない海』の海であり、初めて会った時のホースから吹き出る水と水溜り、2人を隔てる川、雨、雨上がりの虹のかかった空、カラオケルームの湿気を帯びたオレンジジュース、勢いよく吹き出るラムネ、そして第8話の伊古が女友達サカキ(今泉佑唯)と塗るペンキの青色だ。そのペンキの瑞々しい青は、彼の「感情のない海」を壁紙にしたスマホ画面に映し出される海を、間違って塗り重ねてしまうほど鮮やかだ。そして、サカキの存在によって、伊古はスマホの水没を招き、スマホ以外連絡手段のない伊古とワコの関係に最初の危機を与え、視聴者にこの先起こるかもしれない、「恋の尽き」を予感させるのである。

 伊古の水が滴るような瑞々しさ、止めどなく溢れる性的な欲望の隠喩と、伊古とワコを取り巻く“水”はさながら青春映画だ。一方のふうくんとワコの恋を取り巻くのは、彼女がいろいろな感情を押し流すお風呂とシャワー、3年住んでガタがきた部屋の水道の水漏れがポツンポツンと鳴り続ける音だ。2話で伊古とワコが初めてデートした日、2人で見上げた雨の始まりが、地面に落ちている『ぼくらのおわり』という映画のチラシを濡らし、そこに会社のビルから外の雨を眺めているふうくんのショットが重なる時ほど残酷な暗示はなかっただろう。

 1つの恋が始まる時、女の中ではもう1つの恋は終わりを告げる。惰性の恋が終わり、欲望の渦に流されるように新しい恋に突入し、満たされたかと思いきや、そうはうまく行かない。

 ワコの新しい恋を見守っていたはずの満月は、いつのまにか、ふうくんに別れを告げた時には三日月に変わっている。ワコには眩しすぎる、キラキラとした学園祭で踊る伊古と女の子の傍を舞うシャボン玉は、ワコの傍でパチンと破裂する。明らかに何かが終わる予感が漂っているのに、ふうくんという居場所がなくなってしまったワコ自身は、伊古との恋愛という夢物語を新たな居場所として縋ろうとしている。そして学校にもどこにも居場所がなかったはずの伊古は、新しい仲間と新たな居場所を見つけつつあるのである。

 幻想的な恋が痛々しい執着へと変わってしまう前に、ワコは新しい何かを見つけることができるのだろうか。そこに、川谷絵音演じる沖原監督のスキャンダルの報道と、これからさらにその全貌が明らかになりそうな、物語の鍵となっている印象的な沖原監督の劇中映画の情景が、ワコの人生にどう絡んでいくのか。

 ふうくんと別れ、1人で暮らし始めたワコの人生第2章が始まった。まだ原作は完結していないこの物語、ワコを入れた球体は海の上を滑り、どこに流れ着くのだろう。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
木ドラ25『恋のツキ』
テレビ東京にて、毎週木曜深夜1:00〜1:30放送
BSジャパンにて、毎週火曜深夜0:00〜0:30放送
Netflixにて、11月30日全世界全話一挙配信予定
主演 : 徳永えり
出演 : 渡辺大知(黒猫チェルシー)、神尾楓珠、伊藤沙莉、藤井美菜、池内万作、山田キヌヲ、小倉優香、川谷絵音、今泉佑唯(欅坂46)、江口のりこ、安藤政信、きたろう
原作:新田章『恋のツキ』(講談社『モーニング・ツー』連載中)
脚本:高田亮、ペヤンヌマキ、大江崇允
監督:森義仁、酒井麻衣、松本花奈、桑島憲司
音楽:TOMISIRO
チーフプロデューサー:大和健太郎
プロデューサー:山本晃久
共同プロデューサー:坂本和隆
コンテンツプロデューサー:鎌仲佑允、井原梓
In association with Netflix
制作:テレビ東京/C&Iエンタテインメント
製作著作:「恋のツキ」製作委員会
(c)新田 章/講談社 (c)「恋のツキ」製作委員会 
公式サイト:http://www.tv-tokyo.co.jp/koinotsuki/

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