『おっさんずラブ』の魅力はなんだったのか? 私たちに教えてくれた“壁”の乗り越え方
恋をすると、本当の自分を曝け出さずにはいられないし、自分と向き合わずにいられない。牧も春田も、人を好きになってしまったがために、あるいは誰かに好きだと思われているために、人が言うほど「完璧」でも「お人よし」でもいられない自分に気づかされてしまう。武蔵もまた、「理想の上司」でも「理想の夫」でもない、女子よりも乙女チックな心情を隠さずにはいられなくなり、「本当の俺を知ってほしい」と30年連れ添った妻に吐露してしまう。
第3話においてファミレスで泣いている蝶子と春田を見つけた時、武蔵は「なにかしたのか?」と春田を問い詰める。この時の武蔵は「蝶子にとっての理想の夫であり、春田にとっての理想の上司」モードに入っている。だが、「はるたんが好き」という本音を吐露した瞬間、彼は春田にぴったりとひっついて離れない乙女、つまりは「本当の俺」に早代わりしてしまうわけである。
武蔵の恋は、コミカルでありながら、常に部長という役職、夫という役割から離れられずにいる、それこそ『おっさんずラブ』の切なさを描いたものでもある。恋をすることで、上司として、夫として求められている自分でいられなくなることのジレンマに彼はいつも震えている。
最終回の終盤で武蔵は、第3話で恋のライバル・牧の肩にぶつかって、強張った表情を見せていた時と違い、牧のことを認め、その肩に手を沿え、頷く。そして第1話と同じように春田が落とした書類を拾ってあげてもドキッとして慌てふためいたりしない。彼は最後に、恋ではなく部長として生きることを決意した。それはまるで『ローマの休日』のアン王女が恋ではなく自分の与えられた役割を全うすることを選んだかのように、おっさんヒロインの成長を描いていたようにも思う。
上司として、大人の女として、幼なじみとして、ルームメイトとして。登場人物たちはあらゆる役割や所属、性別、年齢などの壁を前に、または相手のことを思いすぎて、前進することを躊躇し、途方にくれる。だから彼らはとっさに繋いでしまった手を、いつも慌てて引っ込める。それに対してマロが、躊躇なく好きな人を抱きしめ、軽々とその手をとってしまうのは、もしかしたらその若さゆえかもしれない。
『おっさんずラブ』はそういう年を取れば取るほど越えられなくなる壁やしがらみを乗り越え、身体に装着した鎧を取っ払うための物語だ。そして、自分のことより相手の幸せのために動いてしまう人たちの優しい、優しい物語なのだ。
ラストシーンにおいて、常に自分のことをおざなりにして一歩引いてしまう牧が、少しだけわがままになって、鈍感すぎる春田が牧のことをようやくちゃんと理解して、流されるのではなく自分の意志で抱きしめキスをしたことが全てを物語っていた。武蔵だけでなく、大きく成長したのは突然のモテ期に翻弄された春田でもある。
壁は簡単に越えられる。彼らが繰り返し語ってきた「自分たちにとって一番大事なことは何か」という言葉さえあれば。
■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。
■リリース情報
『おっさんずラブ』
10月5日(金)Blu-ray&DVD発売、レンタル全4巻同時リリース
<Blu-ray>
価格:21,600円+税
<仕様>2018年/日本/カラー/本編+特典映像&音声特典(収録分数未定)/16:9LB/1層/音声:リニアPCM2chステレオ/字幕:なし/全7話/5枚組(本編Disc4枚+特典Disc1枚)
<DVD>
価格:17,100円+税
【仕様】2018年/日本/カラー/本編+特典映像&音声特典(収録分数未定)/16:9LB/片面1層/音声:ドルビーデジタル2.0chステレオ/字幕:なし/全7話/5枚組(本編Disc4枚+特典Disc1枚)
※仕様は変更となる場合がございます。
【特典映像】
★おっさんずラブ2016
★記者会見
★PRスポット集ほか(予定)
【音声特典】
出演者による本編副音声を収録!
#2…田中圭×林遣都
#6…田中圭×内田理央×瑠東東一郎×Yuki Saito
※収録内容は変更となる場合がございます。
出演:田中圭、林遣都、内田理央、金子大地、伊藤修子、児嶋一哉、眞島秀和、大塚寧々、吉田鋼太郎
脚本:徳尾浩司
音楽:河野伸
演出:瑠東東一郎、山本大輔、Yuki Saito
主題歌:スキマスイッチ『Revival』(ユニバーサル ミュージック)
ゼネラルプロデューサー:三輪祐見子(テレビ朝日)
プロデューサー:貴島彩理(テレビ朝日)、神馬由季(アズバーズ)、松野千鶴子(アズバーズ)
制作著作:テレビ朝日
制作協力:アズバーズ
発売元:株式会社テレビ朝日
販売元:TCエンタテインメント
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