永野芽郁と佐藤健の関係性がもどかしい 『半分、青い。』一風変わったヒロイン・鈴愛の独特な世界

永野芽郁と佐藤健のもどかしい関係性

 だが、奇妙なことに、彼らは目の前にある「運命」と心の奥でざわつく本能を無視して、「運命の相手」を探す。第3週「恋したい!」はまさにそれだった。2人はそれぞれに互いの恋の予感に無関心でいられない感情を無意識に押し殺しながら、「運命なら連絡先交換しなくてもきっと会える」、「もう一度会えたら運命かもよ」とそれぞれに運命の相手を追いかける。特に一度のデートで終わってしまった鈴愛の「恋らしきもの」は、「落としたカセットテープを拾う」という少女漫画めいた運命的な出来事によって彩られ、その真面目そうな男の子(森優作)に彼女自身も視聴者もなんだかピンとこないまま、あっけなく終わりを迎えるのだ。

 さらには、今週放送分の第7週「謝りたい!」の予告を見る限り、中村倫也が好演している、女泣かせのゆるふわ男子・朝井正人が「鈴愛ちゃんの彼氏の正人です」と言う。またも彼女は、というよりこの朝ドラは、「朝ドラらしくない」北海道出身ではあるが東京とバブルの匂いをこれでもかというほど匂わせる男・正人を第2の男として登場させるのである。

 鈴愛と律は「あの素晴らしい愛をもう一度」の赤とんぼの記憶を共有し、大魔神ゴアの笛で繋がり、「告白か?」「好きだ鈴愛」「冗談だな」「うん」というやりとりを電話越しに淡々と繰り返す。それでも彼らは、「この気持ちは無いことにしよう、心にしまってやがて忘れよう。私と律にそんなことは似合わない」と心に芽生えたトキメキを封じ込める。「そうなるはずの2人」はなかなかそうならないのだ。

 抑圧された恋の感情は、くらもちふさこ作品を原作とする豊川悦司演じる秋風羽織が描く少女漫画へと昇華される。左耳を失聴したことで一度半分になった彼女の世界は「か細く頼りなく心もとなかった」が、秋風の漫画と出会うことで彼女の「世界の色が変わった」。彼女は「先生の世界をいつも心に抱きしめて生きている」。一方、秋風本人はというと、そんな甘美な雰囲気は一切なく、『オペラ座の怪人』よろしくマントのように黒い服を翻し、鈴愛の聴こえない側の耳元で「岐阜のサル、田舎に帰れ」と囁き、時に誰もが聴こえないナレーションの呼びかけにさえ応じる、非常に愛すべきキュートな曲者なのであるが、この作品と作者のギャップも、大きな魅力の1つだろう。

 鈴愛が秋風に対して「こんなふうに世界を見る人がいる。この世界がこんなふうに見える眼鏡があるならその眼鏡貸してほしい」と感じたように、鈴愛の世界も視聴者や他の登場人物たちからすると、独特だ。彼女の目から見た90年代の東京はどう見えるだろうか。晴が「あんたの夢をたくさんの人が一緒に見るのかもしれん」というように、このドラマの魅力は、天真爛漫で時に強情で調子乗りな、一風変わったヒロイン・鈴愛にしか見えない世界、彼女の夢を垣間見る面白さにあるのかもしれない。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『半分、青い。』
平成30年4月2日(月)~9月29日(土)<全156回(予定)>
作:北川悦吏子
出演:永野芽郁、松雪泰子、滝藤賢一/佐藤健、原田知世、谷原章介/余貴美子、風吹ジュン、中村雅俊/豊川悦司、井川遥、清野菜名、志尊淳、中村倫也、古畑星夏
制作統括:勝田夏子
プロデューサー:松園武大
演出:田中健二、土井祥平、橋爪紳一朗ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/hanbunaoi/

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