>  > アメリカの現状をあぶり出す『デトロイト』

地獄のような体験を観客に味わわせる映画『デトロイト』は、現在のアメリカの状況をもあぶり出す

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 執拗な侮辱や罵倒、激しい恫喝、そして銃撃による殺人…。人の目が無い狭い空間で、警官に異常な暴力を受け続ける地獄のような体験をじっくりと観客に味わわせる映画が、本作『デトロイト』だ。そして本作をさらに重苦しいものにしているのは、その胃が痛くなってくるようなおそろしい内容が絵空事ではなく、被害者の証言などを基に再現した「実際の事件」だという部分だ。

 1967年に起こった「アルジェ・モーテル事件」は、地元デトロイトでは有名だというが、アメリカ人の多くに知られていたわけではなく、監督のキャスリン・ビグロー自身も、本作の企画が持ち込まれることで初めて耳にしたのだという。そして今回、このアカデミー受賞監督が事件を映画化したことによって、世界的に存在が広まることになったのだ。

 事件は、ミシガン州デトロイトのモーテルで、黒人の若者がふざけて二階からモデルガンを発砲したことから始まる。建物は包囲され、突入した警官によってすぐさま一人が射殺される。さらにモーテルの客は廊下に集められ、無関係の者を含めて、その場で人権を無視した暴力的な取り調べを受けることになる。次第に警官たちはヒートアップしていき、その場でまたしても新たな惨劇が起こってしまう。

 警官たちはなぜこのような異常な行動に出たのか。その背景には根深い人種差別意識があるといわれる。それは、事件が起こった都市部の中心地区では、黒人が6割ほどを占める地域であるにも関わらず、そこで犯罪を取り締まっている警察官の95%が白人であったという異様な事実からも類推できる。本作では描かれなかったが、当時の警察署内でも、数少ない黒人警官は、白人の同僚らから日常的に差別を受けていたことが証言によって明らかになっている。そんな白人警官たちが、一般の黒人、ましてや容疑者たちに、人権に配慮した態度がとれるはずがない。

 「まだまだ人種差別が激しい60年代だから、こんな事件が起こったのか?」と思ってしまうが、じつは近年も同様の事件が続発している。2014年以降、ニューヨークのスタッテン島、ミズーリ州ファーガソン、メリーランド州ボルチモア、ルイジアナ州バトン・ルージュなどで、銃を持たない無抵抗の黒人が、白人警官による暴力的な職務質問や銃撃によって殺害される事件が頻発し、人種間の対立が深まる深刻な社会問題になっているのである。つまり60年代アメリカの事件が描かれた本作を観るということは、いまだ同じ問題を抱える現在のアメリカを見るということなのだ。

 本作は40分ほどの長尺を使って、モーテルでの警官の異常な暴力をドキュメンタリー風に描いているが、前半部では、その背景となった「デトロイト暴動」のもようを、事件の関係者たちによる複数の視点で表現している。混乱状態のなかで放火、略奪事件が多発し、事態収拾のため警察官に加え州兵までが動員され、この暴動は5日間のうちに40人以上が死亡、1000人以上が負傷するという、アメリカ史上最大の規模となった。アルジェ・モーテル事件は、まさにその最中に起こったのだ。

 同時にアメリカはベトナム戦争のまっただ中であり、デトロイト市街のことを「ベトナムみたいだ」と劇中で言及されていたように、荒廃した街のなかを銃を持った兵士たちが見回っている光景は、まさに戦場のようである。本作で描かれる惨劇は、ここから端を発する。

 市街をパトロールしていた、白人警官のクラウス(映画では仮名となっている)は、店から商品を略奪して逃走する黒人男性を見かけると、追いかけながら思わず後ろから射殺してしまう。武器を持たない人間を背後から銃撃したということで地域住民は怒り、鎮圧どころか火に油を注ぐことになってしまった。警察署でもこの一件は問題視され、クラウスの立場は危うくなる。だが、彼に悪びれたり反省する様子は見られない。ウィル・ポールターが憎たらしく演じるこの男を、本作は異人種への共感や理解が抜け落ちている人間として描く。このような差別主義が醸成されるというのは、このデトロイトの黒人居住地区に代表されるように、アメリカ社会が人種ごとに生活圏が分断されていることが要因の一つとなっている。

 その後発生したアルジェ・モーテル事件で、クラウスは名誉挽回とばかりに、功を焦ってモーテルに飛び込み、その場から逃げようとする黒人男性を見つけ、また射殺してしまう。白人警官たちは、その失態を取り繕うために、黒人容疑者たちや、居合わせた白人女性2人を並ばせて違法な取り調べを始める。だが彼らは、自分たちに有利な証言を引き出せず、犯行に使われた銃も見つけられない。そもそも銃撃事件は発生していないからだ。

 そこで警官らは容疑者を1人ずつ呼び出し、見えない場所で次々に殺害しているように見せかける芝居をすることで、心理的に追いつめていくゲームのような駆け引きを行う。そこで起こる悲劇は、その深刻な事態に反し、まるでコントのようなとぼけた失敗が連続していく。被害者たちが、彼らのきわめて幼稚な行動に振り回されざるを得ないという状況が、この事件の悲劇性を増している。

      

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