“30代前半でスペシャリストもの”の成功法則 『アンナチュラル』石原さとみの新境地に期待
1月12日夜10時スタートの連続ドラマ『アンナチュラル』(TBS)は、「(もし)内閣府主導で行われた死因究明等推進会議(2012年に実施)において、死因究明に特化した公的な研究所が作られていたら…」(脚本の野木亜紀子)という仮定を基に、不自然死究明研究所(unnatural death Investigation laboratory)、通称UDIラボの法医解剖医たちが運び込まれた遺体の人の死因を医学的に探っていく1話完結のミステリーだ。法医解剖医のひとりで主人公の三澄(みすみ)ミコトを演じるのは石原さとみ。
法医学ミステリーというと、アメリカのドラマでは既にいちジャンルを形成していて、女性の解剖医や法医学者、検視官が出てくるものだけでも、『CSI』シリーズ、『BONES/ボーンズ』、『リゾーリ&アイルズ』、『ボディ・オブ・プルーフ/死体の証言』と盛りだくさん。日本においてもシーズン17を迎えた『科捜研の女』(テレビ朝日)というロングヒット作があるだけに(しかも放送中!)、正直言って企画に新鮮味はない。主演の石原も既に9年前の『ヴォイス~命なき者の声~』(フジテレビ)で法医学者の卵を演じている。
しかし、数字を取れる医療ものと刑事ものをミックスさせられるこのジャンルは、本来ポテンシャルが高い。脚本の野木亜紀子は『逃げるは恥だが役に立つ』のイメージが強いが、同作はもちろん『空飛ぶ広報室』、『重版出来!』などでも職場の人間関係を魅力的に描き出しており、ラボのメンバーを愛すべきキャラクターに仕上げているだろう。逆に野木作品でミステリーというのは挑戦だが、そこはプロデュース、演出がイヤミスの『リバース』、『Nのために』などを手がけてきたチームだけにサポートできそうだ。さらに、日本では死因がきちんと解明されない死が多すぎるため、防げるはずの死を防げていないという問題提起が、視聴者の共感を得られれば傑作になりえるはず。『相棒』にしても『ドクターX ~外科医・大門未知子~』(ともにテレビ朝日)にしても、ヒットするドラマには必ず“社会への怒り”が内包されているものだから。
ところで、石原さとみがエンタメ作品で演じてきた役柄には、大きく分けて2パターンがある。ひとつは『シン・ゴジラ』のカヨコをはじめ、『失恋ショコラティエ』、『ディア・シスター』(ともにフジテレビ)などの高飛車で天然な“クラッシャー美女”。何よりもまず女子力が際立つタイプだ。もうひとつは『リッチマン、プアウーマン』、『5→9 ~私に恋したお坊さん~』(ともにフジテレビ)などで演じた、仕事への意欲はあるのに今ひとつ報われない就職氷河期世代の“等身大キャリアガール”。ひとつ前の主演作『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ)はその両方のキャラクターがミックスされた“石原さとみ全部乗せ”とでも言うべきドラマだった。
その点、『アンナチュラル』のミコト役は、石原自身が「フラットな子ですね」と語るように、高飛車なクラッシャーではなく、ファッションやメイクが“ナチュラル”で女子力も控え目。働く女性が共感しやすそうだ。ラボの同僚たちとわちゃわちゃ会話するときは、声を張り上げるいつもの“さとみ節”が炸裂しているが、それもドラマのリアリティを損なってはいないように見える。あとは、ミコトが発揮する正義感にどれだけの求心力があるか。『ヴォイス』で演じた医学生が母親の死を解明したかったというモチベーションを持っていたように、ミコトにも医師の中でマイナーな法医解剖医を目指したことには何か理由があるはずだが、その謎が明かされるときを楽しみにしたい。