現役看護師が『コウノドリ』のテーマを考察 データが示す“出産後の育児”の現状とは?

現役看護師が見た『コウノドリ』

 以上の調査から、多くの父親が育児サポートにあたっていることがわかる。しかし、前述した佐野夫妻のケースは、夫の育児サポートだけでなく妻を含め、共稼ぎ夫婦が家族になるにはどうすれば良いか、という課題が見えてくる。特に妻の彩加は自身のプロジェクトのため産前ギリギリまで仕事に没頭していたという背景も見逃せない。女性が職場で一定のボジションにつき、仕事を続けていくには、出産はハードルが高いという現状が未だにある。よって産後すぐに保育園に子どもを預け、仕事復帰を考える人も多い。彩加も例外にもれず、自身のプロジェクトを泣く泣く他に託して産休に入った。だから産後、プロジェクト自体が頓挫してしまったことを後輩に聞き、産まれてきた子どもに先天性心疾患があるにもかかわらず子育てどころではなくなってしまう。

 また、産後はホルモンのバランスが崩れやすく、抜け毛、むくみ、生理不順、肌荒れなどの身体的症状に加え、子どもを迎え、生活リズムが一気に変化することで、心身共に不安定になりやすい。そのため、仕事でほとんど家にいない夫に頼ることもできず、他者に頼るという手段も思いつかないほど憔悴しきっていた。これは、産後うつを発症するには十分である。こうした事態を未然に防ぐためにも、共働きの夫婦こそ早い段階から妻自身の仕事を含め、計画的に夫と話すことが理想的だ。

 しかし、マイナビニュースで行われた共働き女性読者、100人へのアンケート調査では、育休中に共働き(復職)について話し合う機会をもった人は全体の20%に留まり、互いに仕事をもった夫婦だからこそ、厳しい現状となっている。とはいえ、「パートナーとの役割分担」、「パートナーとの会話」、「パートナーとのスケジュールの共有」が共働きをする上でもっとも重要なことという意見が全体の80%以上を占め、互いの協力なくしては、子育ては成立しないことが示された。

 出産は、実に喜ばしいことであると同時に、夫婦として、そして子どもを含めた家族として、乗り越えていかなくてはならない新しい課題が伴う。

 今回取り上げた産後うつのほか、これまで放送された第4話までには、聴覚障害者夫婦の出産、子宮頸部腺癌、無痛分娩、TOLACなど、さまざまなケースが描かれた。いずれも、産前、出産、産後を通して、夫婦が親としてどう生きるのか、その覚悟が試されている。

 鴻鳥が言った「出産という奇跡のあとには現実が続いていく。赤ちゃんと現実を生きるのは僕たちではない、家族だ」という言葉は、この後のストーリーにおいても考えさせられるキーセンテンスになりそうだ。

201705_kounodori
201705_kounodori2
201705_kounodori3
201705_kounodori4
previous arrow
next arrow
201705_kounodori
201705_kounodori2
201705_kounodori3
201705_kounodori4
previous arrow
next arrow

<引用参考文献>
イクメンプロジェクト
日本経済新聞
妊娠期における夫婦の状況:親となる意識の男女比較(お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター紀要)
ベネッセ教育総合研究所 第3回乳幼児の父親についての調査(2014)
こそだてハック
マイナビニュース

■内藤裕子
ライター。雑誌やWEBの編集、イベント企画、広報、クリエイターのマネージメント等を経て、現在は看護師。一方、写真関連コンテンツの企画や構成なども手がける。

■放送情報
金曜ドラマ『コウノドリ』
TBS系にて毎週金曜22:00~放送
原作:鈴ノ木ユウ「コウノドリ」(講談社「モーニング」連載中)
出演:綾野剛、松岡茉優、吉田羊、坂口健太郎、清野菜名、浅野和之、江口のりこ、星野源、大森南朋、佐々木蔵之介、古畑星夏ほか
プロデューサー:峠田浩
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/kounodori/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる