松坂桃李、高橋一生、千葉雄大……『わろてんか』男たちの「昭和の少女漫画」的な色合い
吉本興業の創業者・吉本せいをモデルにした「女性の一代記」を描く朝ドラ『わろてんか』(10月2日放送開始)。「笑い」をテーマとしつつも、ここまでの展開では、笑いよりも恋愛要素が強く、「昭和の少女漫画」的色合いが濃い作品になっている。
登場人物のキャラクター設定も、登場の仕方も、会話の掛け合いも、非常にオーソドックス。そのために、既視感を指摘する声は多いが、その一方で、安心感もある。特に、葵わかな演じる、明るく元気で笑い上戸な「光」としての存在のヒロイン「てん」に対し、周囲を取り巻く男性たちがまとう「影」の構図は、非常にベタでわかりやすい。さらに、もともとベタな展開をさらにわかりやすくしているのが、画面を彩るキャラクターの色味のコントラストである。
たとえば、ヒロイン・てん(葵わかな)がまばゆいほどの明るい赤の着物を着ているのに対して、優しく聡明な兄・新一(千葉雄大)は、常にセピア色を背にまとっていた。新一が登場する室内には、なぜかいつも弱弱しい西日がさす。あるいは、日中、太陽の降り注ぐ街中を歩いているときですら、新一の顔には影が落ちていた。幼い頃からてんの理解者であり、いつでも味方な新一は、病弱だ。その儚げな魅力は、登場時から常に死亡フラグを背負っているように見えていた。しかし、来るぞ来るぞと思ってはいたものの、さすがにたった2週間で「遺影」として登場する「ナレ死」を迎えたのには、驚く。あまりに突然すぎて早すぎる退場は、これまた昭和の少女漫画的である。
また、てんの後の伴侶となる旅芸人の藤吉(松坂桃李)。イメージカラーは、衣装の青。父親に出された「笑い禁止令」の呪縛から、てんを解放してくれる存在であり、送り続ける手紙でいつでも笑わせてくれる存在でもあった。だが、本人はというと、舞台の上では失敗ばかりのダメ芸人。それでいて、自分が人気芸人であると嘘をつき続けてしまう弱さと、理想を追い求め続ける青臭さを持ち合わせている。
しかも、てんと再会した藤吉が、「八卦(占い)」で相性を占ってもらったところ、こんな結果を告げられる。「再会はまれに見る大凶の不幸、これ以上会えば災いは命に関わることになる」。これは藤吉に思いを寄せるリリコ(広瀬アリス)の嫉妬による陰謀だったわけだが、それにしても、未来を暗示するような不吉な内容である。
そして、てんの縁談の相手として登場する伊能栞(高橋一生)のイメージはもちろん白。てんが暴漢に襲われそうなところに、真っ白なスーツ姿+ステッキを携えて颯爽と現れ、救ってくれる「白馬の王子様」的登場の仕方も、登場シーンの大仰な音楽も、クスリと笑ってしまうほどに少女漫画的だった。
さらに、てんの亡き兄・新一の残した研究に出資したいと申し出てくれたり、てんに想い人がいることを知り、「西洋の自由恋愛に憧れているから」という名目で身を引いて縁談を断ったり……と、絵にかいたようなパーフェクトな設定。しかし、てんの家族思いな面に惹かれ、「君となら僕もそんな家族をつくれるかもしれない」と言うあたり、もしや家族の愛を知らない、孤高な寂しさを抱く人? という気も。
ちなみに、優しく大好きな兄、藤吉、伊能と、イケメン3人衆が序盤で女性視聴者の心をわしづかみにしているなか、ひとり蚊帳の外の存在は、てんの従兄で、てんをいちばん近くでずっと見守り続けている風太(濱田岳)である。今のところ最も常識目線からのツッコミかつズッコケ役で、お約束的笑いのパートを担っている存在だ。そんな彼のイメージは、その衣装とも結びつく地味な茶色。