久しぶりの“ニコラス刑事”登場! ニコラス・ケイジが『ヴェンジェンス』で見せる、圧倒的な哀愁

久しぶりの“ニコラス刑事”登場! ニコラス・ケイジが『ヴェンジェンス』で見せる、圧倒的な哀愁

 この映画のもとになっているのは、アメリカのベテラン女性作家、ジョイス・キャロル・オーツの中編小説『Rape : A Love Story』であるという。そう、本作の中心的なテーマは、かつてジョディ・フォスターが主演した映画『告発の行方』と同じく、法廷や取り調べ、あるいは世間からのレッテル張りによって、被害者自身がさらなる精神的な苦痛や不利益を生じる問題、俗に言う「セカンドレイプ」の問題にあるのだった。おぞましい事件のあとも、真綿で首を締めるように社会から抹殺されてゆくシングルマザーの女性。かつて地元のチアリーダーとして鳴らしたその美貌とスタイルは、世間からの妬みや誹りとなって、彼女のもとに返ってくる。一体、なぜ? 悪いのは自分なのか?

 さらに、問題を複雑化しているのは、この映画の舞台となるナイアガラフォールズ市の状況だ。水力発電を用いた豊富な電力によって、かつては重工業地帯として栄えたこの町だが、今や工場は次々と閉鎖され、失業者たちが町に溢れている。ティーナを襲った彼女と同年代の無法者たちも、恐らく失業者なのだろう。家庭も持たず、親と同居しながら日々酒を飲み続ける男たち。そして、高額な弁護士を雇った彼らの親もまた、決して裕福ではない。彼らに弁護士を紹介したのは、家族が懇意にする神父なのだから。神父は容疑者たちの親に、そっと囁く。「この町で工場が消えつつある今、頼みの綱は観光業です。公園での集団レイプはマイナスです」と。そして、家を抵当に入れてでも、高額な弁護士を雇うことを勧めるのだ。地域を代表する者の意見として。

 「ヴェンジェンス」という、あまり耳慣れない英語は、「復讐、仇討ち、報復」を意味する。「法で裁けぬ悪を撃て」あるいは「外道どもに制裁を」といった威勢の良いキャッチコピーが暗示するように、その結末は推して知るべしである。けれども、誰に打ち明けることもなく、ひとり淡々と物事を進めていくジョンの姿には、爽快さなど微塵も感じられない。そこにあるのは、むしろ悲痛さである。もともとは軍人として、湾岸戦争にも従軍したという彼のもとには、もはや愛すべき妻も、気心知れた同僚もいない。彼の目の前にあるのは、幼き頃とはまったく異なる、荒れ果てた故郷の現実のみである。一体、なぜ? どうして、こんなことになってしまったのか?

 冒頭のカーアクションをはじめ、後半の展開など、広義のアクション映画ではあるものの、むしろ社会派の法廷劇であり、プラトニックなラブロマンスでもある映画『ヴェンジェンス』。自らの心情をほぼ語ることなく、終始憂いに満ちた表情を浮かべながら、なすべきことを淡々となし遂げるニコラス・ケイジの哀愁は、もはや圧倒的と言えるだろう。そんな彼が、最後に見たものは……先ほど「ラブロマンス」と書いたけれど、本作の原題には、原作小説と同じく、“A Love Story”という言葉が添えられている。しかし、その相手とは果たして、誰だったのか? それは恐らく、「未来」だ。彼は依然として「未来」をあきらめてはいないのだ。たとえ、それが自分のものではないとしても。本作のプロデューサーに名を連ねているニコラス・ケイジ自身の真意も、実はそのあたりにあるのかもしれない。

『ヴェンジェンス』予告編

■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。Twtter

■公開情報
『ヴェンジェンス』
9月30日(土)より新宿バルト9ほか全国ロードショー
監督:ジョニー・マーティン
脚本:ジョン・マンキーウィッツ
出演:ニコラス・ケイジ、アンナ・ハッチソン、ドン・ジョンソン、デボラ・カーラ・アンガー、タリタ・ベイトマン、ジョシュア・ミケル、マイケル・パパジョン
配給:クロックワークス
2017年/アメリカ/英語/カラー/ビスタ/デジタル上映/DCP5.1ch/99分
(c)2017 DETECTIVE AND THE GIRL PROODUCTIONS, LLC All Rights Reserved.
公式サイト:http://vengeance-nicolas-movie.com/

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