映画について書く・語るという行為は新たな時代に突入しているーー『映画評論・入門!』モルモット吉田インタビュー

映画について書く・語るという行為は新たな時代に突入しているーー『映画評論・入門!』モルモット吉田インタビュー

 幻の映画評論家・増田貴光

――本書に登場する評論家で言うと、北野武さんとやりあっていた田山力哉さんの存在も大きいですね。

吉田:キネマ旬報で連載されていた田山さんのコラムは、毒舌の度が過ぎていて面白かったですね。もっとも肝心の批評は、若い頃に比べるとイージーになっていたようにも思いますが、北野監督やおすぎさんを正面から批判する田山さんのような存在は、現在はいませんね。

――なぜ現代だと存在しないのでしょうか。

吉田:映画ライターのハウツー本を読むと、「映画ライターは宣伝チームのひとりです」と書いてあるものもありましたが、今、映画評論はネットで充分なのかも知れませんね。紙媒体で映画について書くのは紹介、取材だけで良いと、みんな思っているんじゃないでしょうか。

――宣伝ライターと評論家の境目が曖昧になっているなかで、作品のネタバレについての考え方も、評論の歴史の中で変わってきていますか。

吉田:ネタバレは昔の方が酷かったんですよ。淀川さんも『映画の友』の友の会で読者を集めて公開前の映画を次々喋っていたそうですが、『いとこ同士』も公開前にラストまでバラしたらしい(笑)。昔の映画評論を読むと、ネタバレがすごいですよ。それでも書き手によって気を遣って書くタイプと、無神経にネタバレを書くタイプが昔からいます。映画を楽しむ上で、ある程度のネタバレ防止は必要だと思うのですが、今はその範囲が広がりすぎていると思いますね。結末まで書くのは論外としても、基本的な設定や、起承転結の起の説明すらもネタバレと言われると、観て書く必要なんてないなと思います。マスコミ試写でも誓約書を書かされて、幾つもの項目にわたって公開前に書いてはいけないことが記されているのを目にすると、さっき言ったように初日に劇場で観てネットに感想を書くことが、いかに良い環境で自由に書けるかを改めて実感しますね。

――本書の中で主役とも言える存在感を放っているのが、映画評論家・増田貴光です。

吉田:淀川長治の弟子と呼ばれ、現在の映画系タレントの元祖とも言える存在です。『土曜映画劇場』の映画解説者やタレントとしても一時期は非常に人気がありました。彼の名前自体は知っていたんですが、僕が生まれた時にはもう映画評論もタレント活動もされていませんでした。増田さんを知っている方に話を聞いても、本に書くような価値はないと言われてしまうのですが、数年間ながら映画評論家のみならずテレビの人気司会者でもあり、レコードも出すマルチ活動ぶりから一転して奇妙な形で芸能界から姿を消し、その後も“現実離れした”映画みたいな犯罪をおかしてしまう。彼一人だけでノンフィクション本が作ることができるぐらい興味深い存在だったので、この機会に書きたいと思ったんです。

 これからの批評に求められるもの

――「第3章 映画監督VS映画評論家」では、市川崑監督が批評とは何かを提示した大変読み応えのある論争が行われています。雑誌『映画芸術』は、編集長である荒井晴彦も脚本家・映画監督であり、作り手が書き手となっていますが、このあたりをどう感じますか。

吉田:リアルサウンド映画部にも連載されている松江監督もそうですが、作り手の方たちのほうが評論家・ライターよりもはるかに映画を観ていることがある。一昔前には、大島渚監督が自身でも映画を撮り続けながら鋭い評論を発表していました。作り手からの発信も、どんどん活性化していけばいいと思います。SNSで評論への反論や陰口を言うのではなく、堂々と反論して作り手側との議論が活性化すると、良い緊張感が生まれると思います。

――松田政男さんが提唱した「批評の党派性」についての言及も本書にあります。政治思想的であったり、作家ありきで批評の方向性を決めることこそが、批評の活性化に繋がるというものですが、これを改めて吉田さんはどう考えていますか。

吉田:松田さんの言われる党派性が今も継続できるとは思いませんが、この監督、この俳優と見定めたら、作品の規模を問わず付き合い続ける姿勢は必要だと思います。例えば古澤健監督や、瀬々敬久監督などは、東宝でメジャー映画も作れば、その10分の1程度の予算でインディーズ映画も撮られている。評論で取り上げられるのは作家性の強いインディーズ作品の方になりがちですが、メジャーで撮ったものも職人技術の提供だけではないはずです。実際、古澤監督のラブコメは、監督がかなり乗って撮っているのが伝わるほど、凝った演出があります。それらを読み解いていくのも映画批評の必要性でしょう。また今は映画だけに限らず、TV、配信など様々な形態で撮られる作品に作り手は果敢に挑んでいますから、書き手がそこに併走できていないことが多いと自戒を込めて思いますね。

(取材・構成=編集部)

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著者:モルモット吉田
出版社:洋泉社
定価:1500円+税

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