林遣都はいかにして個性派俳優に成長したか? 『しゃぼん玉』で見せた艶っぽさ

林遣都、“艶やかな演技”の魅力

 又吉直樹原作のドラマ『火花』での徳永役や、現在放送中の連続テレビ小説『べっぴんさん』で演じたクールなドラマー河合など、話題作に多数出演している若手実力派俳優・林遣都。デビュー当時は、スポーツを題材にした作品に出演することが多く、さわやかなイメージが強かったが、徐々に個性的な役柄にシフトし、いつの間にか脆さや艶やかさを内から醸し出す俳優へと変貌した。最新作『しゃぼん玉』でも、名優・市原悦子や綿引勝彦を相手に、通り魔や強盗傷害を繰り返す無軌道な若者を演じ切った。監督、キャスト、スタッフから高い支持を受ける俳優・林遣都の魅力とは……。

 2007年、少年野球のバッテリーの友情を描いた『バッテリー』で俳優デビューを飾った林。あどけない表情ながらも、時折見せる強い視線は、多くの人に印象を残し、日本アカデミー賞新人俳優賞をはじめ、キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞、高崎映画祭最優秀新人賞など多くの映画賞を受賞した。

 その後も、飛び込み競技を題材にした『DIVE!!』や、ボクシングを取り扱った『ラブファイト』、駅伝がテーマの『風が強く吹いている』で主演を務めるなど、さわやかで健康的なイメージが彼には定着した。

 そんな中、2010年に公開された映画『パレード』で新境地を見せる。若者5人がルームシェアする中で、それぞれの心の奥底に潜んでいる感情がふつふつと浮かび上がってくる姿を描いた作品だが、林は金髪の男娼役を演じた。これまでの清潔感溢れるイメージとは一転、夜の街で艶やかに、そしてはかなげに生きる青年を好演した。本人も、この作品で自身のパブリックイメージを払拭したという思いがあったようで、インタビューでもそのような発言をしている。

 若いうちにタイプキャストに陥ると、それを打破するためにパブリックイメージと違う役に挑むことが多い。子役として活躍していた須賀健太も、愛らしい印象のイメージを、『シマウマ』や『ディアスポリス』でサイコキラー的な役を演じることによって払拭し、表現の幅を広げた。林と『DIVE!!』で共演した池松壮亮も、規模の大小を問わず質の高い作品への出演を続け、“世界観を作り出せる俳優”として各方面に引っ張りだこだ。

 林自身も『パレード』以降、出演作品の幅は広がり、『悪の経典』で男教師に思いを寄せる高校生を怪演すると、『にがくてあまい』ではゲイの菜食主義者、『花芯』では、結婚相手から全く愛されずに徐々に嫉妬に狂っていく夫を演じるなど、人間の欲望の深淵を非常に艶っぽく演じる俳優として高い評価を受けている。

 『しゃぼん玉』ではタイトルの通り、地に足がつかず、根無し草のようにフワフワとさまよう青年・伊豆見を演じた。拠り所がないゆえに不安にさいなまれ、相手を攻撃してしまう悪循環が、市原演じるスマ婆さんと出会ったことにより居場所を得る。常に不安からくる焦りと怒り、悲しみに満ちた顔が、徐々に表情を取り戻していくさまが妙に艶っぽい。これは、さまざまな役柄で経験した感情の引き出しが下地になっているからなのだろう。林は「非常に難しい役柄でした。現場では常にいつ心が揺らぐのか、変わるのかを感じようと思った」と語っているように、セリフや感情表現があまり多くない中、丁寧に役柄に寄り添うスタンスで、一人の青年の着地点をしっかりとつかんだ。

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