門間雄介の「日本映画を更新する人たち」 第7回
注目すべき“80年代生まれ”の監督たちーー映画作りの中心を担う層が変化した2016年の日本映画界
そろそろこの1年を本格的に振りかえる時期になってきた。2016年の日本映画が活況を呈していたとすれば、それは質の高い作品や大小含めたヒット作が多く生まれたからだけでなく、幅広い年齢層の映画監督たちがそれぞれ一見に値する作品を発表したことによるんじゃないか?
■1950年代生まれ
廣木隆一(『オオカミ少女と黒王子』『夏美のホタル』) 54年生まれ
黒沢清(『クリーピー 偽りの隣人』『ダゲレオタイプの女』) 55年生まれ
石井岳龍(『蜜のあわれ』) 57年生まれ
阪本順治(『ジョーのあした 辰吉丈一郎との20年』『団地』) 58年生まれ
■1960年代生まれ
庵野秀明(『シン・ゴジラ』) 60年生まれ
片渕須直(『この世界の片隅に』) 60年生まれ
是枝裕和(『海よりもまだ深く』) 62年生まれ
岩井俊二(『リップヴァンウィンクルの花嫁』) 63年生まれ
行定勲(『ピンクとグレー』『ジムノペディに乱れる』) 68年生まれ
大根仁(『SCOOP!』) 68年生まれ
■1970年代生まれ
中村義洋(『残穢 -住んではいけない部屋-』『殿、利息でござる!』) 70年生まれ
佐藤信介(『アイアムアヒーロー』『デスノート Light up the NEW world』) 70年生まれ
新海誠(『君の名は。』) 73年生まれ
李相日(『怒り』) 74年生まれ
西川美和(『永い言い訳』) 74年生まれ
白石和彌(『日本で一番悪い奴ら』) 74年生まれ
吉田恵輔(『ヒメアノ~ル』) 75年生まれ
山下敦弘(『オーバー・フェンス』『ぼくのおじさん』) 76年生まれ
沖田修一(『モヒカン故郷に帰る』) 77年生まれ
横浜聡子(『俳優 亀岡拓次』) 78年生まれ
入江悠(『太陽』) 79年生まれ
ほかにも1930年代生まれの山田洋次(『家族はつらいよ』)、東陽一(『だれかの木琴』)が過激な一作を放つなど、作り手の年齢層はかように分散していたが、こうやって見ると90年代以降の日本映画を牽引してきた50年代、60年代生まれの監督たちから、70年代に生まれた40代半ば~30代半ばの監督たちへ、映画作りの中心を担う層が徐々に移行していることがよくわかる。ただまあ、年とともに作り手の世代が推移するのは当然の話。注目したいのはこの次の世代、80年代生まれの監督たちだ。
■1980年代生まれ
深田晃司(『淵に立つ』) 80年生まれ
小泉徳宏(『ちはやふる』) 80年生まれ
真利子哲也(『ディストラクション・ベイビーズ』) 81年生まれ
『淵に立つ』がカンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞した深田晃司。『ディストラクション・ベイビーズ』がナント三大陸映画祭銀の気球賞を受賞した真利子哲也。以前から批評家筋で期待の大きかったふたりの成果は、作家性の強い映画作りを志す後進に扉を開くことになるかもしれないし、『ちはやふる』2部作で小泉徳宏が示した高い娯楽性と完成度は、今後のエンターテイメント作品の基準を底上げするものになるかもしれない。
と、この辺までは日本映画の歴史のなかで一続きの流れとして位置づけることができる。でも実は、いま紹介したのは80年代生まれの監督たちでも、80年から84年までに限った80年代前半生まれの監督たち。『舟を編む』の石井裕也(83年生まれ)も同じ世代に属しているが、彼らに続く85年~89年生まれの監督たち辺りからは、途轍もなく新しいものが生まれそうなざわめきを聞くことができる。いままでと違う文脈で、いままでと違うものを表現しようとしている、とでもいうのか。さて、ここからは85年生まれの松居大悟に関する話だ。