『オオカミ少女と黒王子』なぜヒット? 少女マンガ原作映画の流行と廣木隆一監督の演出術から探る

門間雄介が『オオカミ少女~』のヒットを分析

 二階堂ふみ、山﨑賢人主演『オオカミ少女と黒王子』が興収20億円を見込むヒット作になっている。

 『別冊マーガレット』に連載された八田鮎子の原作を実写化した本作しかり、少女マンガ原作の恋愛映画はここ1、2年の日本映画における流行りだ。そしてこの流行はTVドラマの映画化作品がここ1、2年低調であることと相関関係にある。

 それは2014年のことだった。国内の年間興行収入ランキングを見ると、この年の上位20作品のなかにTVドラマを映画化した作品は2作入っている。『相棒-劇場版III-』と『トリック劇場版 ラストステージ』だ。ところが2015年になると、上位20作品のうちTVドラマを映画化した作品は『HERO』のみ。ちなみに2013年は『映画 謎解きはディナーのあとで』『真夏の方程式』『劇場版 SPEC~結~漸ノ篇』の3本がランクインしていたので、3→2→1と漸減していることがわかる。

 TVドラマを映画化するメリットはそもそもどこにあったのか?

 「だってTVドラマならみんな知ってるじゃん?」

 そう、既に認知度の高いコンテンツーーあえてコンテンツと言うけれどーーを映画にすることで、興収の土台を盤石に固めることができたからだ。でもTVドラマの状況をおさらいすれば、いや、おさらいしなくてもなんとなくわかるように、「TVドラマならみんな知ってるじゃん?」という時代ではなくなってきた。2013年のドラマ最高視聴率『半沢直樹』42.2%(最高視聴率が20%を越えた作品は6作)、2014年の最高視聴率『HERO』26.5%(20%超は2作)、2015年の最高視聴率『下町ロケット』22.3%(20%超は1作)といった具合だから(※1)、当たる映画を作ろうと考えている人は自然と他の鉱脈を探すことになる。

 ちょうどそんななか2014年に決定的なできごとが起きた。まずは国内の映画史上歴代3位となる259.2億円の興収を記録した『アナと雪の女王』の大ヒット。そして7月公開の『好きっていいなよ。』(興収10.3億)を皮切りに、『ホットロード』(興収25.2億)、『近キョリ恋愛』(興収11.4億)、『アオハライド』(興収19億)と少女マンガ原作のラブストーリーが続けざまに10億円超の興収を上げたことだ。3月公開の『アナ雪』はそれまで劇場に足を運ばなかった観客を大量に動員することに成功した。その直接的な影響は『アナ雪』の上映前に予告編が流された、同じディズニー配給作品『マレフィセント』(興収66.5億)に跳ね返ることとなる。

 じゃあ間接的な影響はなにかと言うと、女子中高生を中心にした若くて新しい観客が自分たちの観たいと思う作品を劇場で発見したことだ。それまで映画業界では中高生がターゲットの作品作りをしても大したヒットにはつながらないと信じられてきた。他の年代と比べて人口が少なく、当然だけど所得も少ないからだ。ところが『アナ雪』で広がった観客層はそんな定説が間違いだったことを証明した。単に私たちの観たい映画を作ってこなかったからだよ、あんたら、とでも言わんばかりに。なおかつ中高生の観客層は、ファミリーやカップルと同様に数人単位のグループで劇場へやって来るので、一定の規模の動員につながる。そんなタイミングはちょうどTVドラマの映画化が機能しなくなってきた時期と合致した。じゃあ女子中高生にとって既に認知度の高いコンテンツを映画にしていこう。新たな鉱脈はそこにあったのだ。

 少女マンガ原作の恋愛映画は、時としてストーリーが短絡的だったり、キャラクターが平面的だったりする。低年齢のターゲットを意識して、わかりやすさを過度に重視した結果かもしれないし、マンガの世界観を生身の人間が演じるものに上手く移行できていないせいなのかもしれない。恋愛経験ゼロの女子高生とドSの男子高生が恋愛契約を結ぶという『オオカミ少女と黒王子』の設定も、なかには他愛ないもののように感じる人がいるだろう。でもこの作品は、作り手の明確な目的意識とともに作られ、実際その通りの成果を生みだしている。描こうとしたのは登場人物の変化とその関係性の変化だ。

 その点、二階堂ふみの演技がマジカルなのは、おどおどした女子高生が恋によって自信を持ち、健気に成長していく過程を誰の目にもはっきりと伝えるからだ。そして彼女との関わりのなかで少しずつ心を溶かし、やがて自分でも気づいていなかった本心をあらわにする男子高生を、山﨑賢人がぎりぎりのバランス感覚で生身の存在感を失わずに演じている。この辺りの微妙な案配は、おそらく他の監督には容易に演出できなかったものかもしれない。廣木隆一、62歳。日本映画において、いま最も溌剌として精力的な監督だ。

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