『レジェンド 狂気の美学』ブライアン・ヘルゲランド監督インタビュー
『レジェンド 狂気の美学』監督が語るトム・ハーディの演技力、そしてイーストウッドから学んだこと
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』『レヴェナント:蘇えりし者』など、近年その活躍が目覚ましいトム・ハーディが1人2役で主演を務めるクライム・サスペンス『レジェンド 狂気の美学』が、6月18日に公開される。1960年代にロンドン全域を支配下に収めたという、実在した双子のギャングスター、クレイ兄弟の栄光と破滅を描いた本作でメガホンを取ったのは、『L.A.コンフィデンシャル』『ミスティック・リバー』などの脚本を手がけ、『ペイバック』『42 〜世界を変えた男〜』などでは監督も務めたブライアン・ヘルゲランド監督だ。リアルサウンド映画部では、ヘルゲランド監督に電話取材を行い、役者としてのトム・ハーディの魅力や、監督としてのキャリアについて、クリント・イーストウッド監督とのエピソードまで、存分に語ってもらった。
「トム・ハーディはすべてを完璧に役に注ぐ」
ーー監督をはじめ製作陣も本作の主演にはトム・ハーディしか考えられなかったそうですね。彼のどのような部分がこのクレイ兄弟という役にピッタリだと考えたのでしょうか?
ブライアン・ヘルゲランド(以下、ヘルゲランド):最初、僕はトムに双子の兄レジーの役をやってもらいたかったんだ。レジーがこの作品のメインキャラクターで、ロンはサブ的な立場だからね。だが、トムはレジー役ではなく、ロン役をやりたがったんだ。結果的にそれは大きな問題ではなかったんだけど、この映画を作るに当たって、まずその壁にぶち当たることになった。トムと僕とで話し合いを重ねていく中で、彼が「ロンを演じさせてくれるならレジーをやってもいい」と言ってくれたので、最終的に彼に1人2役を演じてもらうことになったんだ。僕が最初に想定していた通りにはならなかったけど、2人のキャラクターの違いをしっかりと演じ分けられるトムに、両方の役を任せてよかったと思っているよ。
ーートム・ハーディはロンのどのような部分に魅力を感じていたのでしょうか?
ヘルゲランド:ロンはかなりハジけたキャラクターで、実際の人物よりも誇張されたところがあることに惹かれていたようだね。これまでのトムのキャリアを見てみても、彼が今まで演じてきたキャラクターにはそういう部分が備わっているから、彼はそのようなキャラクターを演じることが好きなんだろうね。逆に言えば、レジーは古典的な主役タイプのキャラクターで、むしろトムがこれまでのキャリアの中で避けてきたタイプの役柄だ。今回の作品では、これまでトムが演じてきたキャラクターと同じタイプのロン、そして彼が今まで演じるのを避けてきたタイプのレジーという、2つのトムの演技を同時に観ることができる。観客にとってもきっと面白いはずだよ。
ーー彼が1人2役をやることになって、脚本や撮影など、映画を作っていく上で何か変更しなければいけないことはありましたか?
ヘルゲランド:脚本自体はトムに会う前から書き上げていたんだ。クレイ兄弟は実在の人物として既にキャラクターが確立されているし、作品の中でもキャラクターとして確立されていたので、トムが1人2役を演じるからといって、特に脚本を変更することはなかったね。ただ、撮影の部分では、彼が1人2役をやることになって、変更せざるを得なかったことがたくさんあった。撮影期間も足りないし、物理的にどういうふうに撮影をするのか、それを考えるのが非常に難しかった。最初に想定していたのは、まず彼にはレジーのほうを一通り演じてもらって、一連の撮影が終わったら、ロンの役作りのためにトムには一旦オフを取ってもらって、その間に我々は彼が出ないシーンを撮るというものだった。その後、役作りのために体重を増やして戻ってきたトムの、ロンのほうのシーンを撮影していくという具合にね。それが理想的ではあったんだが、やはりスケジュール的にそんなことをする余裕はなかったんだ。トムにはむしろ同じ日に両方の役を演じてもらわなければいけなかった。
ーー具体的にどのように撮影は行われたのでしょうか?
ヘルゲランド:まずはその日の撮影が始まる朝に、僕とトム2人でロンとレジーそれぞれの役を演じ分けながらリハーサルを行った。そのリハーサルではロンとレジーそれぞれに対する演じ方のアプローチを決めていったんだ。まずは事前に録っておいたロンの声をイヤーピースを通してプレイバックするという形で流しながら、レジーのほうの撮影を行った。レジーのほうの撮影が終わると、トムには衣装やメイクを変えてもらって、次はロンのほうの撮影に入る。その時には既に撮ったレジーの素材があるから、それをイヤーピースで流しながらロンを演じてもらうという形で撮影に臨んだよ。
ーートム・ハーディと組むのは今回が初めてですよね。一緒に仕事をしてみて、彼の役者としての魅力をどこに感じましたか
ヘルゲランド:自分の持てるものすべてを完璧に役に注ぐということだね。僕自身も脚本家として膨大なリサーチをするわけだが、彼も役に対して膨大なリサーチをするんだ。僕にとってそれはすごく嬉しいことだし、トムは肉体的な動きや声を通して、どのようにその役柄を表現するのかということを常に考えている。実際に撮影をしている時は、それが人生の中で一番大切なんだというぐらいの気持ちで、彼はすべてを注いで作品作りに励んでいる。本当に役のままに呼吸をしている役者だと思うね。役柄の中に自分が埋没したり、消えたりすることを望んでいるんだ。
ーー今回の作品は撮影時期でいうと、トム・ハーディが『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を撮り終えて、『レヴェナント:蘇えりし者』の撮影に入る前ですよね。これまでの彼の出演作の中で、出演をお願いする決め手になった作品はありますか?
ヘルゲランド:撮影時期についてはその通りだ。『マッドマックス』は撮影後に追撮もたくさんあったようだが、トムは1ヶ月ほどのオフ期間を経て、『レジェンド』の撮影に入ってくれた。この作品を撮り終えてから1週間後には『レヴェナント』の撮影のためにカナダに行っていたよ。僕は彼のキャリアの中で、『ウォーリアー』が特に素晴らしかったと思っている。セリフではなく、そこに存在することで、いろいろなことを伝えたり伝えようとしたりする。そういう演じ方をしようとする役者を僕はすごくリスペクトしているんだ。トムはまさにそういう部分を持ち合わせている役者だから、今回一緒に仕事ができて本当によかったよ。