漢&ダースレイダーが語る、日米ヒップホップ・ビジネスの違い 漢「N.W.A.の根本にあったのは、イージー・Eのストリートセンス」

漢&ダースレイダーが語るヒップホップ・ビジネス

ダースレイダー「ゴールとかビジョンを、どれだけ一緒に持てるかは大切」

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――ジェリー・ヘラーは最終的にN.W.A.と仲違いするわけですけれど、ミュージシャンとマネージャーの関係という点でいうと、漢さんたちがLibra Recordsに宣戦布告をしたことを思い起こします。(参考記事:漢ら、レーベル始動会見でBEEF宣言も 宇川直宏「ミュージックビジネスに風穴開ける動き」

漢:まぁ、日本にもシュグ・ナイトはいるということだね。銃を持っていないだけで、金属バットは持っている。晋平太がイージー・Eであることを願いたいけれど、それもどうやら違うっぽいよね。

ダース:喜んでいっちゃっているものね。シュグ・ナイトはドレーが『2001』というアルバムを出すタイミングに合わせて、そっくりさんのオンパレードのアルバム『シュグ・ナイト・リプレゼンツ:クロニック・2000』ってのを出したり、所属アーティストを分断工作して仲違いさせたり、あの手この手を使うんだけれど、そういえば◯◯もLibraで営業やっていたことあったなって、映画を観て思い出した(笑)。ちょっとした役職をつけて、人心操作をするんだよ。

――ヒップホップ・ビジネスをやるうえで、アーティストとマネジメントの理想的な関係性はどんなものだと考えていますか?

漢:ラッパー同士だからわかる、ちょっとわがままなところが通じつつ、だからといって平気で図太い感じにならないというか、人としてどうなの? ってところの常識がちゃんとしていれば、こっちとしては良いムードを作るだけかな。ただ、より売れるためにはどうするかというのを、自分のことと同じ気持ちで話していれば相手に通じるとは思っていても、実際にやってみるとなかなか難しかったりする。

ダース:ゴールとかビジョンを、どれだけ一緒に持てるかは大切だよね。持てないのに無理をして一緒にやろうとすると着地できないことが多いし。逆に、こういうものを作ろうよ、こういう風にやろうよ、というのが一緒にできるんだったら、それは人が多くてもちゃんとチームとして機能する。

漢:ただ、僕らの場合は一般的なメジャーの契約とは違って、アルバム何枚でという話ではなく、1枚単位でのショット契約みたいな感じだから、やってみて違うと思ったら他のところに行けばいいわけだし、その辺の縛りは少ない。僕らが自ら新人を発掘して出す以外は、ウチから出したいって話を持ってきてくれる奴だから、せっかくならいままで通りやるんじゃなくて、力を合わせるからこそできることをしたいってだけで。それで色んな奴がウチから出したいって思ってもらえるのが、僕らとしても一番良いね。いまの時代、レーベルをやるってことがどれだけ意味があるのかはわからないけれど、少なくともヒップホップにおいては、レーベルに何人かのアーティストがいて、一緒にツアーをやっていたりとか、そういうのも含めて僕は楽しんでいたから、そのイメージは残したいと思っている。

――ドキュメンタリーの中で、ドギーズ・エンジェルのメンバーが「イージー・Eには人との付き合い方を教えてもらった」と話していたのが印象的でした。そういう部分に気を使える人物だったからこそ、うまくいった部分もあったのではないかと。

漢:それは必要でしょうね。

ダース:アメリカは契約社会だから、ヘアメイクがどっち持ちで、ステージドリンクの水の銘柄はこれでとか、そういうのも全部契約書に入っていたりするから、余計に繊細なところもあるかも。それは向こうのショービジネスがちゃんとしているという証拠でもあるけれど、すごく面倒くさくて、アーティスト本人も把握しきれない。だから専門の人が代行するわけだけど、イージー・Eはきっと、その辺も含めて後輩にノウハウを教えていたんじゃないかな。他人への挨拶の仕方とかね。

漢:僕らが組んでいるのも、外に向けていろいろやるときに、それぞれのカラーの違いをうまく出していけたら良いなと。まだ100パーセントのコンビネーションにはなっていないけれど、俺が話すことをダースが頭の良さそうな感じで解説をしてくれたりとかさ。俺がやっても絶対にみんなに信じてくれないことでも、ダースがやれば大丈夫なことがあるし、逆に俺なら通せる話もあるから。ビジネスとしてちゃんと回るように、まともな社会人に負けないくらいちゃんと話し合っているよ。ヒップホップレーベルだからといって、音楽だけが商売だと考えていないし、僕ら自身がラッパーだからこそ拡げられる入り口もあると思っている。もっとお金を稼いで、どんどん大きなものを掴んでいきたいね。

ダース:いまは『フリースタイルダンジョン』とかでシーンが盛り上がっているし、俺たちだけじゃなくて、みんなが日本のヒップホップをもうひとつ上のステージに持って行こうという意識でやっているから、そこは大事にしていきたい。

漢:いまはテレビ番組のスタッフとか、メディア業界の中にもヒップホップに理解のある奴が必ずいるし、そういう奴らが30代とかになってちゃんとした地位に就いていたりするから、もっと大きな企画もできるようになっている。だから、全国的な組合とかがそろそろできてもいいのかなと、数年前から思っていて。そしたらヒップホップは、日本でももう一回、大きなビジネスとして成り立つんじゃないかな。

(取材・文=松田広宣)

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監督:マイク・コルベラ、アンドレ・レリス
出演:イージー・E、ドクター・ドレー、アイス・キューブ、DJイェラ、MCレン、ジェリー・ヘラー、アラビアン・プリンス ほか
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