漢&ダースレイダーが語る、日米ヒップホップ・ビジネスの違い 漢「N.W.A.の根本にあったのは、イージー・Eのストリートセンス」

漢&ダースレイダーが語るヒップホップ・ビジネス

漢「アメリカの“リアル”は、自然に自分を大きく見せる演出のことなのかもしれない」

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ーードキュメンタリーに出てくる人物は、N.W.A.にゆかりのある人々ということでしたけれど、中にはよくわからない人物もいましたね。

ダース:その辺もアメリカっぽくて面白いよね。イージー・Eの幼馴染とか、お前は誰だよって感じもあって(笑)。プロデューサーって名乗っているけれど、何をプロデュースしたのかよくわからなかったり。

漢:これはディスとかじゃないけれど、アメリカのエンターテイメントの“リアル”っていうのは、とても自然に自分を大きく見せる演出のことなのかもしれない。俺は、50セントはすごくカッコいいと思うし、認めているし、タフだと思うし、曲も好きだ。でもあいつの映画は「そこまでじゃないだろ」ってくらい、大袈裟なところがあった。本当に映画の通りなんだったら、死ぬよ(笑)。

ダース:『ゲット・リッチ・オア・ダイ・トライン』ね。50セントは防弾チョッキを着て、いつも酒を持ってステージに出てくるんだけど、インタビューを読んだら「裸に防弾チョッキを着ても意味ないし、酒じゃなくてジンジャーエール。そんなの全部演出だよ」って真顔で言ってる。そんな俺ヤバイでしょ? くらいの勢いで。それがアメリカのエンターテイメントで、ショービジネスなんだよ。昔のソウルとかパンクとかも、全部そうやってデカく見せて、13歳でキャディラックに乗っていてさあ、みたいなことを普通に言ってる。え? 免許はどうなっているんですか、みたいなことは置いといてね。でも、日本だと急にいろんな制限がかかってきてしまう。

漢:俺が知っているのは織田裕二くらいだよ、リアルを歌って認められているのは。だってあいつは、15の頃に盗んだバイクで走りだしてって歌でヒットしているからね。

ダース:それは織田裕二じゃないよね、尾崎豊だ(笑)。

漢:まあ、アメリカと日本の共通ルールは唯一、世の中的に認められるのに決まったラインはないってことだよね。こいつならアリだけど、こいつは無しっていうのは一緒でさ。キャラクターとか歌のメロディーとかのバランスがちゃんとできていないと、そういう表現はやっぱり通らない。

ダース:そうそう。だからある意味では、どう通すかは総合的なスキルなんだよ。N.W.A.はキャラクターとかも全部含めて、うまくクリアしているわけで。スヌープ・ドッグとか、殺人容疑をかけられて一応は無罪ですということで出てきたけれど、そのあと映画の中で「俺は人を撃って殺したぜ」といっても、スキルが高いからまかり通ってしまう。逆にアイス・キューブは普通に大学とか行ってるんだけど、誰よりもギャングスターなことを言って認められているし。

MC漢:ゲームなんてまさにそれだよ。日本じゃあんなのあり得ないって(笑)。裁判所で「僕は本当はギャングじゃなくて、お兄ちゃんがギャングでした、歌のための嘘なんです」って泣いておいて、また復活するから。それでも曲はかっこいいから、普通にみんな買う。

ダース:向こうでも行きすぎるとダメだしね。スヌープのクルーにいた奴で、本当にギャングの兄貴みたいなのがCDを出したんだけれど、プロデュースしたスヌープの方が稼いでいると知って怒って、スタジオにマシンガンを持って現れたんだって。スヌープはそれを笑い話にしていたけれどね。フィラデルフィアのクルーで銀行強盗の歌を歌っていると思ったら、本当に実行して捕まって終身刑になったやつもいた。そういうことをやっちゃうのは、はっきり言ってビジネスセンスがない(笑)。

漢:だから、アメリカのヒップホップの方が表現できるから良いってわけじゃないよね。俺たちは、ヒップホップのルールはアメリカから教えてもらったけれど、アメリカよりずっと賢くヒップホップのシステムを使っているよ。マイクでは戦ってるし、男の子同士が血を流す喧嘩もしたけれど、銃で殺し合いはしなかったし、いまはみんな仲良くなってネットワークができあがっている。なかなか売れないだけでさ、シーン全体は豊かになってるから。

――日本とアメリカの関わりでいうと、N.W.A.の結成に深く関わっていたスティーヴ・ヤノさんも日系人でしたね。彼の経営していたレコード屋は、発売日前のものも手に入るから、“南カルフォルニアで最も危険なレコード屋”っていわれたりしていて。

漢:ヤノさんはこの映画のMVPだよ。面構えもヤバかったし、なにを目的としてレコード屋をやっていたのかもわからない。いったい何者なんだって感じで。でも、このストーリーって実は“ヤノありき”で始まっている。

ダース:「俺の店の壁一面を、あいつらのレコードで埋め尽くしてやったんだよ」って言ってたけれど、それがどの程度の影響力を持っていたのかはいまとなってはわからない。でも、地元の“ヤバいパイセン”って感じだったんだろうね。あと、別の意味のヤバさでいうと、やっぱりシュグ・ナイト(笑)。

漢:この前もクルマで人を轢いておいて、「銃を向けられたから逃げたんだ」って言ってたもんね。

ダース:『ストレイト・アウタ・コンプトン』の現場でね。とんでもない奴だよ。このドキュメンタリーではイージー・Eとの絡みについても、周囲の人がいろいろ言っているけれど、本当のところはどうなんだろうね。真相は藪の中だけど、深読みできる面白さはある。

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