『マジカル・ガール』カルロス・ベルムト監督インタビュー
増村保造、三島由紀夫、『ドラゴンボール』……『マジカル・ガール』監督が語る、日本文化からの影響
スペイン映画『マジカル・ガール』が3月12日より公開される。白血病を患った余命わずかな少女アリシアの願いを叶えるため、失業中の父ルイスが、高額なアニメのコスチュームを手に入れようとしたことから、登場人物たちの運命の歯車が狂っていく模様を描いた作品だ。第62回サン・セバスチャン国際映画祭で作品賞と監督賞に輝いた本作を手がけたのは、本作が劇場デビュー作となるスペイン出身の映画監督カルロス・ベルムト。イラストレーター、漫画家としても活動するベルムト監督は、架空の日本のアニメ「魔法少女ユキコ」や、長山洋子の「恋はSA-RA SA-RA」など、作品内で日本からの影響を見受けられるアイテムを多数使用している。リアルサウンド映画部では、本作のPRのために来日したベルムト監督に取材を行い、日本文化からの影響や自身の映画製作のルーツ、撮影にあたり意識したポイントなどについて、話を訊いた。
「影響を受けたのは、アルモドバル、タランティーノ、増村保造など」
ーーまず、タイトルから想像していた内容とはまったく異なったストーリーで驚きました。
カルロス・ベルムト監督(以下、ベルムト):最初はフィルム・ノワールを作るつもりで、“脅迫の連鎖”ということだけを考えていたんです。タイトルも別のものでした。ところが、“娘の希望を叶えるために父親が別の人を脅迫する”というストーリーを考えていくうちに、劇中に出てくる『マジカル・ガール』のコスチュームのアイデアが浮かび、それが物語を展開していく上での大きな動力になったので、タイトルもそのまま『マジカル・ガール』になったんです。
ーー監督はマンガ家としても活動されていますが、劇中に出てくるアニメ「魔法少女ユキコ」も監督自身のアイデアですか?
ベルムト:「魔法少女ユキコ」も私が作りました。もともとはひとつのシリーズとしてリアリティが出るように、全部マンガにして紹介しようと思いました。ただ、制作費の問題などがいろいろあったので、内容よりも信じられるものになればいいということで、ポスターと人物だけを作りました。コスチュームは衣装さんに頼んで、日本のアニメに見えるようにお願いして作ってもらって、ポスターは自分でデザインして作りましたね。
ーー監督は日本の文化からかなり影響を受けられているそうですが、そのルーツはやはりマンガやアニメにあるのでしょうか?
ベルムト:私が子どもだった頃、アニメやマンガなど日本文化ブームみたいなものがあって、子どもたちは大きく分類すると、アニメ派か武道派かに分かれました。私はアニメにすごく興味があったので、もちろんアニメ派でした。いろいろな作品を見ていく中で、アニメにも多様性があり、一括りにはできないと思い始めるようになったんです。小さい頃に観ていたのは、『ドラゴンボール』や『聖闘士星矢』、『幽遊白書』などでしたが、次第に大人向けのミステリーというか、謎が多いもの、江戸川乱歩や三島由紀夫の作品に触れていくようになりました。
ーーこれまで何回か日本に来たことがあるんですか?
ベルムト:今回が10回目の来日です。一番最初は観光客として来たんですが、それ以降は浅草に行ったりだとか、写真を撮ったりだとか、いわゆる観光っぽいことはせずに、2〜3ヶ月ぐらい滞在しながら、日本で日常を過ごしていました。日常を過ごすとは言っても、仕事に行くわけではないので、日本に住んで、作品を書いたり、友達と一緒に過ごしたり、いろんなものを見たり、研究をしたり、いろいろです。それがわかるようになったのは、上を見ながらではなく、下を見ながら歩くようになったことですね。目線が上にいくときは、何か写真を撮るものがあるんじゃないかという感覚ですが、目線が下にいくということは、もう日本の方と同じように日常を過ごしているということですからね(笑)。日本に来るときは新宿ゴールデン街や新宿二丁目、上野の国立科学博物館などによく行きますね。
ーーかなりの日本通なんですね(笑)。今回、初の長編監督作ですが、ご自身の映画製作のルーツはどこにあるんでしょうか?
ベルムト:私が影響を受けた監督たちはたくさんいます。同じスペイン人としては、カルロス・サウラ、ルイス・ブニュエル、ペドロ・アルモドバルなどです。国外だと、クエンティン・タランティーノ、ラース・フォン・トリアーから影響を受けています。日本だと、勅使河原宏や増村保造が好きですね。