『ドカ食いダイスキ!もちづきさん』なぜ大人気漫画に? 宣伝担当者が明かす、ヒットの仕組み

『もちづきさん』宣伝担当者インタビュー

 最新話が更新されるたびに必ずと言っていいほどトレンド入りする、限界突破の禁断グルメギャグ『ドカ食いダイスキ! もちづきさん』(まるよのかもめ)。作品の人気もさることながら、「カレーハウスCoCo壱番屋」とのコラボや、東京メトロ新宿駅メトロプロムナード内に掲示した全長12メートルの“ドカ盛り”広告など、その宣伝手法にも毎度大きな注目が集まっている。

 今回は、そんな『ドカ食いダイスキ!もちづきさん』の宣伝を担当する、白泉社の宣伝広報部・宣伝課の山下葵氏にインタビューを敢行。インパクト抜群の宣伝アイディアに辿り着くまでに迫る。(ちゃんめい)

――まず、広報宣伝部のお仕事内容について教えてください。

山下:作品をより多くの方に知ってもらうために、書店や各メディアに対してプロモーションを行う部署です。基本的には、書店用のポスターや販売台、ポップといった宣伝物の制作・手配、SNSを中心としたインターネット広告や、交通広告などを手掛けています。

白泉社 宣伝広報部・宣伝課の山下葵氏

――担当する作品はどのようにして決められているのでしょうか?

山下:弊社は編集部ごとに宣伝担当が1人付きます。私は現在「ヤングアニマル」編集部の担当ですので、本誌に掲載されている全作品の宣伝を担当しています。

――全作品おひとりで……! 大変じゃないですか?

山下:確かに大変なこともありますが、その分いろいろな作品の宣伝業務が経験できるので、すごくありがたいですね。

リアクションしたくなる仕掛けを。宣伝企画の根底にあるもの

――ここからは『ドカ食いダイスキ!もちづきさん』(以下、『もちづきさん』)についてお伺いします。第1話が公開されるやいなやXで日本のトレンド入りを果たすなど、本作は本格的な宣伝を行う前から大きな認知を獲得していたように思います。どのタイミングで本作の宣伝に注力されたのでしょうか?

山下:実は、『もちづきさん』の第1話が公開されてバズった時は「LaLa」の宣伝担当だったんです。その後、配置転換で「ヤングアニマル」の担当になったのですが、そこで「めちゃくちゃバズっているすごい作品があるぞ」と。

 それから『もちづきさん』は社内でも注目を集めていたのですが、1話だけではなく、最新話が更新されるごとにトレンドに上がり勢いが全く衰えない……。決して一過性のお祭りではなく、きちんとファンが付いているのではないかと社内でも徐々に期待が膨らんでいきました。そこで、10月末の単行本1巻発売の際にはプロモーションに力を入れようと、全社一丸となって準備を進めていくようになりました。

白泉社 宣伝広報部・宣伝課の山下葵氏

――最初から話題になっている作品だからこそ、やりたいことが溢れて宣伝手法に迷いが生まれそうです。

山下:本作はXでバズっているという最大の特徴があったので、新たに認知を広げるよりも「すでに読んでくださっているXのファン層に楽しんでもらうには?」という視点で企画を考え始めました。

――確かに『もちづきさん』の様々な宣伝施策は、読者からするとつい誰かに共有したくなるようなユーモアがあります。

山下:Xのユーザーが思わずポスト・いいねしたくなるような……いかにリアクションしたくなる企画にできるのかは重要視していました。

 また、「『ある』のがいけない!」をつい使いたくなってしまうように、『もちづきさん』はセリフやコマにパンチのある作品。ですので、あまり凝ったことをせずに「とにかくデカい!」とか、「とにかく旨い!」とか極力シンプルな形のほうが面白いよね。というのは社内の共通認識としてあるかもしれません。

 単行本1巻発売時の「ドカ盛りフェア」では、もちづきさんが「おなかすいた!!」と言いながら走っているペーパーフィギュアを特典として配布したのですが、それをご飯と一緒に撮影することで一層狂気感が増すとみなさんに楽しんでいただけました。「カレーハウスCoCo壱番屋」さんとのコラボも、そのメニューの大きさから大きな反響をいただきました。

 

――書店の売り場もかなりのインパクトがありました。

山下:例えば「紀伊國屋書店 新宿本店」さんはスペースを確保して大展開してくださいました。販促物としてポップなどの他に食品サンプルも作ってお送りしたのですが、それとは別に自前で食品サンプルをご用意していただいたり、とてつもなくデッカい棚を作っていただいて本当に感謝しかないです。

『ドカ食いダイスキ!もちづきさん』販促用に作られた食品サンプル

施策成功の要因は小規模組織ゆえの距離の近さ

――作品の特性を活かしXを主軸に宣伝を行われてきましたが、11月には東京メトロ新宿ツインプレミアムにキャベツ風のピールオフ広告を展開するという大胆なプロモーションに出られています。きっかけはなんだったのでしょうか?

山下:単行本1巻の発売時は、一般のお客さんにもしっかりアプローチしたいという想いから交通広告という案が出ました。リアルで広告を出しつつ、Xでもしっかりと話題になるというのが理想の形でしたね。

――結果、216枚もの千切りキャベツ風ピールオフアイテムが1日も経たずに無くなるなど大反響を呼びましたが、実施してみていかがでしたか?

山下:ピールオフアイテムが想像以上に早く無くなってしまったのはちょっともったいなかったかなと思いましたが、狙い通りXで話題になって良かったです。公式アカウントからの投稿も話題にしていただけましたが、一般の方の投稿の中で注目していただけたものがいくつかありました。左側の看板のデザインをほんわか可愛く仕上げて、右側の看板のデザインを狂気のコマでまとめるというギャップを作ったことで、「リアクションしたくなる仕掛け」がうまく作れたのかなと感じました。

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