突然リーダーになったらどうする?「赤裸々体験談が沁みる」話題書の著者に聞く、心が軽くなるリーダー論
■躍進する中国、リーダーはどう振舞っている?
――コミュニケーションはビジネスにおいて不可欠だと思いますが、そのあり方も国によって変わるのでしょうか。
深谷:2013~19年まで中国にいた時、現地ではチャットを使って仕事をしていました。チャット上のグループで情報共有し、指示もチャット上で行うのです。当時の日本は電話とメールが主体でしたよね。工場でトラブルが起きたとき、日本なら電話がかかってきて、現場に赴くこともありました。今ではSlackを取り入れる企業も増えている通り、チャットだと同じ情報が多人数でシェアできる。動画も送れるので情報共有がしやすい。現地に行かなくても判断材料があるので、明確な指示ができるし、やりとりの記録が残るので「言った」「言わない」のトラブルも発生しないのです。
――物凄く効率的ですね。日本と中国では、企業風土も異なりますし、リーダーに求められる資質にも違いがありそうです。
深谷:ベースの部分では大きな違いはないと思っています。ただ、お国柄によって違うなと肌で感じたこともあります。日本はチームワークを大事にして、人が抜けた分をみんなでフォローするといった働き方が普通に行われますよね。ところが、中国は個人の業務が明確に決まっているので、人の仕事に手を出さないんです。私が良かれと思って他人の仕事を手伝ったら「それはあなたの仕事ではない」とすごく怒られたことがありました。
――なんと! そんなことがあったのですか。
深谷:少しでも相手が楽になればいいと思ってやったのに、なんで怒られたんだろうと最初は疑問でした。ただ、私は手を出したけれど、何かあったときの責任までは持てないわけです。あなたは責任取れないでしょ、だったら余計なことはしないで、という理屈です。
――個人の仕事が明確だと、リーダーの指示の出し方一つも違うのでしょうね。
深谷:中国はトップダウン型の組織が多いので、リーダーがまず目標をしっかりと掲げることが大切です。そして現場の士気を上げながら、部下の仕事がどこまで進んでいるかを把握し、遅れているときは分担してやろうという指示は、リーダーが出す。そして、最後はリーダーが何とかする。日本も同様のリーダー像はありますが、中国は特にその傾向が強く、最終的にリーダーがあらゆる手を尽くして問題解決にあたりますね。
■目の前にいる人のために何ができるか
――中国企業とのやりとりの際に、政治や宗教の問題など、深谷さんが気をつけてきたことは何がありますか。
深谷:政治のことは話題にしないように気をつけましたが、あんまり意識しないようにしてきました。日本人には、中国ってこうだ、中国人ってこうだ、という思い込みがありますよね。私はそういった思い込みをせず、ニュートラルに事実を確認するようにしました。中国人としっかりとした信頼関係ができれば家族以上の関わりをしてくれる方も多い。とにかく先入観を捨て、一緒に働く仲間としてのコミュニケーションを大切にしました。
――中国の企業が世界経済の中でも頭角を表している要因は何がありますか。
深谷:3つあると思っています。1つ目は圧倒的なスピード感。中国は5~6割の完成度でも商品化するんです。何か起きても彼らは失敗と考えず、結果と考え、試行錯誤して改善していきます。2つ目は現場の対応力。日本は何かあった時にまず上司に確認しますが、中国はその場にいる人がその人なりに考えて解決しようと試みます。3つ目はめちゃくちゃ働くこと。一昔前の日本かなと感じてしまうほどです。良いか悪いかは別として、やらなければいけない仕事をやるときのパワーが凄いですし、高い目標を掲げてもやりきろうとしますね。これらが中国の急成長の要因だと考えています。
――ありがとうございます。そういった中国の強みを分析し、本書で書かれているリーダーのテクニックを取り入れていけば、まだまだ日本企業の伸び代があるような気がします。最後に、この本を読んでリーダーになりたいと思う人にメッセージをいただけますか。
深谷:今回の本は、リーダーはこうあるべきだと思っている方、そしてリーダーという仕事に不安を感じている方に向けて書きました。リーダーに必須なのは、視点を自分ではなくチームに向けることです。この人にはこうなってほしいとか、こういうチームにしたいとか、湧き上がってくる思いがリーダーシップの基礎だと思います。自分の目の前にいる人のために何ができるかを考え、それをするためにリーダーがいると考えてほしいです。
――だからこそ、リーダーはやりがいのある役職だと思います。
深谷:これまでにいろいろなリーダーに話を聞いてきましたが、最初は躊躇していた方でも結果的にやってよかったという意見がたくさん聞けました。リーダーの立場にいるからこそ、人のためにいろいろなことができたと話す人もいます。なぜならリーダーにしか味わない喜びはたくさんあります。この本はそのための心構えをまとめていますので、難しく考えずに読んでもらえればと思っています。
■著者プロフィール 深谷百合子(ふかや・ゆりこ)
研修講師/合同会社グーウェン代表。大阪大学卒業後、ソニーグループ、シャープで工場の環境保全業務を行う。2006年、シャープ亀山工場初の女性管理職となり、約40名の男性部下を抱えるが、仕事を任せられず、リーダーシップとは何かに悩む。失敗して萎縮する部下のフォローをする中で、自分らしいリーダーのあり方を見出す。2013年から部長職として中国国有企業との新工場建設プロジェクトに参画。その後、中国国有企業へ転職。動力運行部の技術部長として約100名の中国人部下を育成する。現在は職場コミュニケーションの改善を主なテーマに、講演や研修を行っている。