サザンオールスターズの”陰”の歴史も明らかにーー『いわゆる「サザン」について』が描く、ヒット作の裏側

『いわゆる「サザン」について』レビュー

 もっとも、こうしたパーソナルな部分やセールスにおける起伏、ひいてはサザンオールスターズの”陰”の部分はあくまでも本書の狙いであるサザンオールスターズの膨大な作品のひとつひとつの誕生の真実に迫るというテーマを追う中で結果的に表出したものだと言える。あくまでも本書の主役はサザンオールスターズの作品であり、本書の出版元である水鈴社の公式noteに小貫が寄せた刊行記念の特別寄稿で、小貫は本書を〈「サザンオールスターズ」というバンドそのものに対する、言わば長文の”ライナーノーツ”である〉と示している。

  その言葉の通り、サザンオールスターズの46年間に渡る膨大な歴史を時系列に沿って丁寧に紐解きながらも、ひとつひとつの楽曲やライブについて小貫が実際に桑田から取材した言葉を引用すると共にリファレンス先を考察し時代背景を解き明かすことで、サザンオールスターズが大衆音楽を作り続ける矜持を感じられるのだ。

 本書の終章には、刊行に際し桑田が小貫に寄せたメッセージが記されている。そこには46年間音楽シーンの第一線で活躍してきたバンドのフロントマンの言葉にしては、あまりにも卑下するようなフレーズが並んでいる。そこまで謙遜することは無いのでは、と小貫が著しているほどである。その言葉はぜひ本書を手に取って読んでいただきたいが、そんな桑田のスタイルだからこそ、サザンオールスターズが46年間第一線で活躍し続けてきた理由だ。メインストリームであるようで、常にカウンター。しかしそのパワーで傍流を本流にし続けてきたサザンオールスターズのこれまでの轍をぜひ本書で味わい尽くすと共に、この先も続くサザンの未来に思いを馳せて欲しい。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「書評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる