【漫画】笑いと恐怖は紙一重? 『すごいよ!!マサルさん』に通じるゆるさが面白い、新たなホラー漫画に注目
モノを盗まないルパン三世
――なぜ『ゆるホラー漫画』を制作しようと思ったのですか?
狭刈十:もともと「漫画を描くならコメディかホラーを描きたい」と思っており、いざ描いてみると自然とその2つが合体した感じです。「心に響く恐怖は緩急が大切で、恐怖のピークを高く保つため、相対的にそれ以外の部分を気の抜けた雰囲気にすると良いのでは」と考えた結果でもあります。
――“オカルト特化のリユース業者”という特殊な仕事はどのようにして考えついたのですか?
狭刈十:当初は「神職・僧侶ではない人が除霊ビジネスを展開する」という切り口を考えたのですが、それでは怪しいサロンビジネスになってしまうと危惧しました。詐欺系のストーリーを描くなら怪しい除霊ビジネスは面白いですが、ホラー作品をやるには少し下衆すぎてイマイチ恐怖に集中できません。そこで「“事故物件をきっちり処理して高く売る”みたいな発想はどうかな?」と思い、オカルト特化のリユース業者を考えました。
――そんなオカルト特化のリユース業者のキャラクター像を作り上げた過程を教えてください。
狭刈十:“モノを盗まないルパン三世”みたいな、調和を重んじる集団に属することができず、半分道楽で仕事をやっている人達。憎めないけど、もれなく性格や人生に難があるイメージです。また、変な服を着て好き放題に働く楽しいキャラクターを作りたかったため、小さな会社であまり上下関係に縛られることなく働いてもらっています。こう言うと少しヤバそうな会社かもしれません。今後はこの会社がヤバいブラック企業にならないよう、なんとかクリーンな方向性で考えていきたいです。
調べ物に多く時間を割く
——各話のストーリー・切り口の決め方は?
狭刈十:大前提として、まず“心霊現象”よりも先に、“物件・モノ”を起点に物語や展開を考えています。設定上ただの心霊スポットに行ってもお金儲けはできないため、買い取るアイテムや依頼の終着点をゴールにして、そこから逆算して物語を詰めています。
——その“物件・モノ”を考えるために、毎回いろいろ調べ物をする必要があり、とても大変そうに思えますが。
狭刈十:はい。実際、描いている時間よりも調べてすり合わせをする時間が多い気がします。例えば、3話の『鬼の首(仮)』に関しては、“一般人が所持できる人体標本の条件”から調べ始めました。フィクションといえども、ビジネスが絡む話なので、「法律に違反しないか?」「法律の穴をつけないか?」などをすごく調べました。
――想像以上にいろいろな方面に気を配りながら作っているのですね。
狭刈十:そうですね。割と人死や事件ありきの物語なので、友人の警察関係者に業務に差し障りがない程度に質問したり教材を教えてもらったりしています。また、これはミステリー寄りのホラーを描くにあたって必須項目になると思いますが、民俗学の情報収集も時間をかけてリサーチすることも多いです。その後、扱うモチーフが決まったら、モチーフの来歴を固めるために本やネットで閲覧可能な論文を読んでいます。いずれも深い専門知識がある分野ではないため、漫画を描きながら勉強している感じです。
——ホラー要素がありながらも、人間の怖さ・愚かさを加えたストーリー展開が面白いです。
狭刈十:個人的なこだわりとして「おばけのビジュアルだけで勝負しない」「ジャンプスケアを用いない」「除霊バトル漫画にしない」といったことをポリシーにして恐怖描写を考えています。「上質な怖さとは種を蒔くようなもので、積み重なるうちにジワジワと育っていく不安感が大切である」と思っており、基本は友達の話を聞くような穏やかなトーンを目指してあえて緩くしています。「長く愛してもらうためには、白飯の合間にたまに塩を舐める程度の恐怖でも良いのかな」と。あえてドラマチックな表現を抑えることで、労働の連続性を表現しているところもあります。
――最後に今後の『ゆるホラー漫画』の展望など教えてください。
狭刈十:お試しで描いた趣味の漫画ですが、今後もネタが続く限りは描き続けたいです。4話はこれまでとは少々趣向を変えたシンプルな怪談話をやる予定です。扱うオカルトの種類も幅広くやっていこうと思っています。Kindleインディーズで1〜3話を一気に読める本を無料公開しているので、ぜひ読んでみてください。SNSに掲載している内容より、所々キャラの顔がカッコ良くしたり台詞が修正されたりしています。
■狭刈十さんのSNSなど
・X:https://x.com/sgr_juu/
・note:https://note.com/nikunikujuu
・『ゆるホラー漫画』Kindle:https://www.amazon.co.jp/dp/B0DCFYKNZX?ref_=k4w_ss_store_lp