中村倫也 初の料理本『THE やんごとなき雑炊』出版記念レポ「雑炊つくりましたって言われたら嬉しい」
雑炊のレシピ本――誕生のきっかけはだじゃれ?
初エッセイ『THE やんごとなき雑談』に続いて、初の料理本『THE やんごとなき雑炊』を上梓した俳優・中村倫也が、3月15日に都内で行われた出版記念イベントに登壇。春らしい緑を基調とした装いで爽やかに登場し、すぐさま行われたフォト&動画セッションでは「終わるころには髭が伸びちゃうんで」とトークが始まるのを待つファンに一言。茶目っ気たっぷりの撮影ポーズで会場中に笑いが起き、和やかなスタートを切った。
料理好きで知られる中村だが、なかでもなぜ雑炊のレシピ本を? という質問には「やんごとなき願いがこめられているんですよ……まあ、だじゃれですね」と笑う。「〝やんごとなき雑〟でまったく違う本が並んでいたらおもしろいんじゃないかと。本の情報誌である『ダ・ヴィンチ』で俳優が料理連載するっていうのも、それだけで〝なんで!?〟っておもしろがってもらえるでしょう。雑菌、雑巾、雑穀などいろいろ候補はあったんですけど、雑炊なら、雑に炊くという字のごとく、縛りがあるなかでもいろんな素材を持ち寄ることができるし、見栄えも変えられる。いろんなシーンをつくって展開していくことができるんじゃないかなと思いました」
「雑炊つくりました」って声をかけられたら嬉しい
書き下ろしのまえがきに、本書の制作にはクリエイティブなものを感じたと書かれていたことについて問われると「クリエイティブって、アイデアを思いつくということだけじゃなくて、制約のなかで何ができるか工夫することだと思うんですよね。そもそも雑炊で連載を続けるなんて普通、しないんですよ。思い浮かびもしない。でもいろんな変遷を重ねながら、雑炊というテーマで毎回いろんな工夫を施しつつ、チームでつくりあげていくのは、ものすごくクリエイティブな時間だったんじゃないかなと思います」と連載を振り返った。
そもそも料理自体がクリエイティブな作業である。中村にとっても料理をすることは特別で、仕事や人と会うなど、他のどんな時間とも異なるという。「一人で料理をして味や食材と向き合って、このあとどうしようかなと工夫を考え、試食をしながら次はこんな挑戦をしてみようと考える。それは、ろくろを回しているときと近いのかもしれませんね。単純に食べるものをつくる、おいしくするというだけでなく、どうなるのかなと考えるとわくわくする。専門家の人には全然違うよって言われるかもしれませんけどね(笑)」
ちなみに、連載に際して「雑炊俳優」というキャッチコピーをつけられたという中村。俳優界でもっとも雑炊をつくっている人間なのでは、という振りには「え~いるかもしれませんよ」と懐疑的な表情を浮かべつつ、「この本を出したことによって、どこかの現場で先輩とかが、実は俺も……って言ってくれたら嬉しいですよね。雑炊を機に深まるコミュニケーション(笑)。町を歩いているときに、雑炊つくりましたって声をかけられても嬉しいな。出版物に触れて自分も何かしましたとか言われるのは嬉しいんですよ」としみじみ。だが、担当編集者に「海外にもジャパニーズ雑炊を広めていきましょう」と言われると「荷が重いよ!」と苦笑いした。
次回作のテーマは〝雑草〟?「僕がタンポポ側だった」
異例の企画本に売れ行きが心配だったという担当編集者だが、幸いにも出だしは好調。今後も「やんごとなき◯◯」をシリーズ化していきたい想いがあるという。となれば問題は、次の「雑○」選び。「実はついさっき、思いつきました。雑草」と答えた瞬間は、笑いと拍手が半々で沸き起こり、担当編集者も戸惑い気味。だが「ちょっといい話してもいいですか」と語り始めたそのテーマは、「読んでみたい!」と思わせてくれるものだった。
「このあいだ、河津桜を見に行ったんですよ。僕が花見するときにいつも心掛けていることがありまして。桜がばあっと咲いている横に、わりとタンポポが咲いていたりする。それを、どんなに地味でも、確認してちゃんと愛でるんです。花見の席ではもちろん桜がメインで、タンポポは気づかれない存在。でも、そこに気づいてあげられる僕でいたいっていう欲が、自己満足があるんです。それは、僕がタンポポ側だったから。気づいてもらえて嬉しかったという経験があるからなんです。で、タンポポって雑草なんですよね。調べると、めちゃくちゃ綺麗な花を咲かせる雑草もあるの。特別な場所に咲いているわけじゃない雑草に注目したら、みんな散歩が楽しくなるかなと思って」
納得しつつも、企画にできるかどうかいまだ懐疑的だった担当編集者だが、雑炊のときも最初は戸惑いつつも採用し、一冊に練り上げたという経緯がある。『THE やんごとなき雑草』の連載が開始する日も近いかもしれない。
撮影:山口宏之