【漫画】低身長の男子と高身長の女子、時を経て再会したら……『僕とキリンの背比べ』に感情が揺さぶられる
中学生の時のアイデア
――今回『僕とキリンの背比べ』を制作した理由は?
朝日:漫画賞に応募するために描いた作品です。実は「小さい男の子とキリンと呼ばれる大きい女の子」という要素と、「僕とキリンの背比べ」というタイトル自体は中学生の時に思いついていました。
――なぜそのアイデアは寝かせていたのですか?
朝日:思いついた時に描こうとしたのですが、当時は技術も環境もいろいろ足りず、完成までは至りませんでした。今が完璧というわけではありませんが、何とか完成には持っていけるような状態になり、「ずっと描きたかったものを描こう」と思って今回制作に踏み切りました。
――2人のメインキャラはどのようにして作り上げましたか?
朝日:どちらもモデルがいます。凛太郎は小学生の時の同級生、キリンは1~2学年上の先輩です。凛太郎のビジュアルや性格はその人を意識したのですが、性格は少々誇張しています。キリンは背が高いこと以外は特に似せていません。作中で特に言及していませんが、ソバカスや色素の薄い髪の毛など、何となくキリンをイメージさせたビジュアルにしています。ちなみに、構想の段階で“キリンの首にハートの痣がある”という設定もあったのですが、いらない要素だったので没にしました。
――そもそも、“キリン”と呼ばれた女性の名前は最後まで明かされませんでしたね。
朝日:これは凛太郎が、キリンを“同じクラスの女子”ではなく、あくまで“キリンという存在”として記憶していたということを意味しています。上手く言えませんが……。
「キリン」だった理由
――身体が大きい動物は他にも存在しますが、なぜ“キリン”を選んだのですか?
朝日:私の実体験がもとになっています。幼少期からテレビや本で見るぶんには平気だったのですが、動物園で見るキリンが苦手でした。目の前にするととても大きく、それがすごく怖かったからです。足元に近付けば近付くほど見上げる形になり、大きさが倍増する気がして、いつも距離を取って遠くから見るようにしていました。
――近くで見ると迫力がありますからね。
朝日:ただ、ある程度成長した時にキリンを見ると、とても優しい目をしていることに気がつきました。たったそれだけのことですが、そこからはもう怖くなくなりました。自分が勝手に見上げて怖がっていただけで、キリンの顔は昔から変わっていません。ただ、自分の見方が変わっただけで、ここまで印象が変わることに驚きました。同時に「この経験を何か創作に落とし込めないか」と考えた結果、キリンが登場する本作が生まれました。ちなみに、小学生の凛太郎が彼女をキリンと呼んでいた理由として、背が高いことはもちろん、無意識に彼女の優しさに気付いていたことを意図しています。
――凛太郎が現在の生活を送りながら、ちょくちょく回想に入っていましたが、そのタイミングが絶妙でした。
朝日:一番最初のネームでは、前半は全て回想で、後半の約10ページで現在を描く予定でした。ただ、これでは“2人の関係性”と“凛太郎の感情の変化”という一番伝えたいことが全く描けないため、物語を細分化してパズルのように組み替えました。現在を軸にしながらも回想を適度に散りばめたことで、凛太郎がふとした時にすぐにキリンを思い出してしまう“過去にとらわれている人物”という部分をより表現できたと思っています。
凛太郎の過去は自己投影しながら
――凛太郎の小学生だからこそ抱える葛藤が絶妙に表現されていました。描くうえで意識したことは?
朝日:凛太郎の葛藤は小学生の時の自分自身を投影しています。凛太郎と母親の会話は、実際に自分と自分の親の間にあった会話です。ただ、自分は身長に対する劣等感はあまり感じておらず、思い悩んではいませんでした。その辺りは凛太郎の性別と性格に合わせて少しオーバーに表現しています。
――“キリン”と再会した時、しどろもどろになりながらもなんとか「ごめん」という言葉を絞り出す凛太郎の様子も印象的でした。
朝日:これは自分の悪い癖なのですが、セリフをどうしても長くしてしまいます。大きなコマ、見せたいコマのセリフは短くしたほうが良いため、今回は余分な要素を削ぎ落とした結果、シンプルに「ごめん」という言葉になりました。また、凛太郎は初稿の段階ではここで泣き出してしまったのですが、改めて凛太郎の性格を考えたところ、「キリンの前では涙を堪えるだろう」と思ってこのような表情になっています。
――これからも感情を揺さぶるような作品を楽しみにしていますが、今後の活動目標を教えてください。
朝日:今は担当編集さんと、連載に向けた漫画づくりをしています。それ以外でも、趣味で漫画やイラストを描いたり、友だちと動画を投稿したりしているので、お暇な時にでもSNSを覗きに来てもらえたら嬉しいです。漫画家としてまだまだですが、見守ってもらえるとありがたいです。