マガジンハウス『漫画 君たちはどう生きるか』仕掛け人・鉄尾周一が社長就任、雑誌から書籍へのシフトが加速する?

  出版大手のマガジンハウスは、12月13日に行われた定時株主総会で、専務取締役の鉄尾周一氏が同日付けで代表取締役社長に就任することが決まった。併せて、前代表取締役社長の片桐隆雄氏は相談役となる。

  新社長の鉄尾氏は、約65万部を突破するベストセラーとなった『漫画 君たちはどう生きるか』の仕掛け人としても知られる。1983年に入社以来、「anan」編集長、書籍編集部編集長などを歴任し、2020年からは常務取締役を務めてきた。

  マガジンハウスは1945年に合資会社凡人社として創業し、1983年に現社名に変更している。創業直後に創刊した雑誌「平凡」はその後に100万部を突破し、1950~60年代の雑誌ブームを牽引する存在となってきた。

  鉄尾氏は林真理子などの人気作家との幅広い人脈をもち、書籍でのヒットを連発してきた経緯がある。以後、マガジンハウスの強みは「anan」「BRUTUS」「POPEYE」などの雑誌にあるのは周知の通りであるが、書籍の編集を長年務めた鉄尾氏の方針で、これまで以上に書籍に注力される可能性もあり得るだろう。

  近年、出版大手は書籍に力を入れる傾向が強まっている。出版社間の人材の移籍や、優秀な編集者の人材獲得競争が激化しているという。特に、過去にヒット作の編集に関わった編集者は引く手数多という状況にあり、水面下で引き抜きの交渉が続いている。それは言うまでもなく、雑誌の凋落が続いているためである。特にコロナ禍によって雑誌の市場は大きく冷え込んできた。

  一方で書籍は、制作に時間こそかかるものの、近年のメディアミックスのブームの中で、一度火が付けばメガヒットを狙うことも可能となる。漫画が注目されがちだが、小説やエッセイが原作になったドラマや映画は数多く、活字媒体に由来するヒットコンテンツは意外に多いのである。そのため、これまで雑誌主体だった出版社も書籍、特に小説に力を入れ始めているのが近年の出版界の動向である。

  鉄尾氏の社長就任で、マガジンハウスの体制にも変化がもたらされるか、注目される。また、マガジンハウスの雑誌は写真をしっかり撮りおろし、丁寧な取材体制を守り続けている稀有な存在でもある。雑誌の世界で様々な革新的な企画を行ってきた同社だけに、低調傾向にある雑誌市場に一石を投じるような企画を期待したいものだ。

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