『キングダム』桓騎は信にどんな影響を与えたのか 対照的なキャラでも、意外に多い共通点

※本稿は漫画『キングダム』のネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。

 中国の春秋戦国時代を舞台に、中華統一の軌跡を描いた人気漫画『キングダム』。史実をベースにしており、戦場が舞台になることがほとんどなため、登場回数が多いお馴染みのキャラクターが死亡してしまうことも珍しくない。一人ひとりの信念を感じ取れる人間模様は作品に欠かせない要素である。

 『キングダム』の69巻では、元桓騎軍の幹部・魔論が「あなたが誰よりも桓騎の死を悔しがっているんですよ」と発言したことで、信が衝撃を受けている描写がある。

 これまで残虐な戦い方をしてきた桓騎に対して、常に苦言を呈してきた信(李信)。現代風に例えるなら、上司の桓騎を信は嫌っていたという関係値だった。そんな信が一体なぜ、桓騎の死にショックを受けていたのか作中では明言されていない。本稿では、桓騎が信にどんな影響を与えたのか考察していきたい。

 そもそも信と桓騎は、武将としてのタイプが大きく違う。信は自らが先頭に立ち仲間を引っ張る武将であり、桓騎は基本後方指揮者。また、信率いる飛信隊は、規則によって略奪を厳しく禁止している。この理由については作中でも語られているため省くが、なんでも有りの桓騎軍とは正反対だ。

 そのため信は、王騎将軍や麃公将軍らに対するような憧れを持って桓騎を見ておらず、武将としてリスペクトしているわけではないことが容易に想像できる。しかし、桓騎が李牧に包囲され絶望的な状況との一報を受けたときは、「あの桓騎が失敗した」と心情を吐露。戦の強さに関しては、王騎将軍や麃公将軍らと並ぶ程に認めていたがゆえ「あの桓騎が」となったのだろう。

 また、桓騎が得意としていた本陣への奇襲は、信もストーリー序盤によく実行していた。さらに、桓騎が「元下僕に元野盗、似たもの同士仲良くやろうぜ」と信に言っていたように、正反対に見えるふたりには、境遇から戦いまで共通点が存在している。

 特に、信と桓騎は少年時代に大切な人を失っている。信は一緒に大将軍を夢見て語り合った漂。桓騎は、最も好いていたシオが殺されている。そういった部分でどこか、通ずる部分があったのではないだろうか。

 その根拠として、桓騎はストーリーが進むにつれて信の呼び方が変わっている。最初は「元下僕」だったが、「元下僕の信」になり「下僕 信」、最後のオギコからの伝令では「飛信隊 信」と変化。「下僕 信」は桓騎自らの下僕として、信を呼んでいたのであれば、呼び方はどうあれ親しみを持っていた可能性もあるだろう。最後には自らの「故郷」とする、砂鬼一家の保護を頼むほどの信頼をみせていた。

 対して信は桓騎について、「最悪の極悪人のクソで、何度殺してやろうと思ったか分からねぇ。でも普通の人間が目を背けるような者たちへの思いが確かにあった」と語っている。砂鬼一家から桓騎の過去や心情を聞き、納得したゆえに出てきた言葉だろう。

 このように信と桓騎は、お互いを徐々に理解していた。最後の最後に桓騎を理解できた信にとって、見殺しにしてしまったという思いが強く残ったのだろう。ゆえに誰よりも、桓騎の死を悔しがったのではないだろうか。

 韓非子との問答の際には、王騎らと並んで桓騎の顔も描かれていた。桓騎の想いを受け継いだ信はどのような活躍を見せるのか、今後にいっそう期待が高まる。

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