かわいい子猫、中身は冴えない中年男『ねこに転生したおじさん』魅力は正反対の“奇妙”な一体感?

『ねこに転生したおじさん』の奇妙な一体感

これまでの“おじさん”系作品とはどう違う?

 これまでにも“おじさん”人気を生み出した作品は存在した。一児の父がヒーローとなるア
ニメ『TIGER&BUNNY』(KADOKAWA)や、仕事に厳格な中年男性が恋をするドラマ『おっさんずラブ』(講談社)が記憶に新しい。『TIGER&BUNNY』の鏑木・T・虎徹は魅力的な容姿と、街を救うことへの熱血さが支持を得た。『おっさんずラブ』は乙女のように変貌した黒澤部長を応援する視聴者が多かった。

 しかし『ねこおじ』の“おじ”はどちらのタイプでもない。“おじ”は小太りの体型に薄い頭皮、顔には冴えないメガネ......と、モテるタイプとはかけ離れており、職場で注意される回想が度々あることから、仕事ができるタイプでもなさそうだ。平日にソファで寝転ぶことに喜びを感じ、会社に同行されそうな際には「二度と通勤したくないですっ」と絶望する。虎徹や黒澤部長に比べ、リアルな人物像だと言えるだろう。

 そんな彼が猫の生活を謳歌し、些細な日常に幸せを見出す姿は見ていて微笑ましい。人間
の理想の生き方をマンガの中で叶えてくれているようにさえ思える。

 プンちゃんの“中の人”はキラキラした女性でも、ピュアな子供でも、活力のある男性でも
ダメなのだ。どこにでもいる平凡で、若干の哀愁が漂う“おじ”だからこそ、私たち読者は背伸びをせず共感し、寝る前のひとときに読む『ねこおじ』の世界に没入できる。

 『ねこおじ』には他にも多数の“おじさん”が登場する。仕事の鬼でありながらプンちゃん
を溺愛する社長、神経質な言動で“おじ”に苦手意識を持たれていた谷さん、コワモテな外見ながら猫グッズを作成する店長、同じく猫を飼うホラー作家のお隣さんなど、その誰もが猫の前では弱みを見せ、無防備になる。中年男性の生きにくさが叫ばれる昨今、まるで猫の存在が彼らの痛みを緩和してくれているようだ。

 プンちゃん(おじ)の猫側の視点でも、社長たちの人間側の視点でも楽しむことができる『ねこおじ』(KADOKAWA)は、X(旧Twitter)に投稿された作品に書き下ろし20ページを加え書籍第1巻が発売されたばかり。今後はSNSマンガに馴染みのない層にも届き、全世代の心をほぐしてくれるだろう。

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