「誰も聞かなかったことを質問して欲しい」ロボット工学者・石黒浩に訊く、アバターとAIと未来

ーー率直なところ、こうした取材もアバターのほうがいいと思いますか?

石黒:どうでしょう。アバターはもうちょっと使い勝手をよくしないといけないですね。でも、人はどんなにAIなど技術が進化しても、絶対に人とコミュニケーションすることはやめないんです。それが生きる目的なんです。自分が何であるかを知るためには、人とコミュニケーションしないといけない。人は生産性を度外視しても、絶対に人と繋がるんです。

 たとえば僕がこの取材は生活するためだけのものだと思うと、そもそも受けないかもしれない。でも取材では自分が喋るなかで思考を整理したり、普通の人が聞いてくれない角度の質問があったりして、とても面白い。だから長い取材対応に飽きてくると、「今まで誰も聞かなかったことだけを聞いてくれ」と記者の方に言うんです。今日もこれからの質問はそういう感じでお願いできたらと思います。取材する側の質が問われますけどね。

ーーそう言われると、頭が真っ白になってしまいますね(笑)。では、この本には書きたくても、書けなかったことは何でしょう?

石黒:人間はこれからどれだけ進化するだろうという話です。進化というのは価値観や世界観がガラッと変わってしまうこと。突如、そういう人間、AI、ロボットなどが現れるかもしれない。しかし、我々は羨ましいとは思わないでしょう。それは猿が人間を羨ましいと思わないのと同じことです。そういうことが起こると、本当の進化が始まるんです。

ーー今はどういう現象がありますか?

石黒:AIはどうでしょう。もうすでにAIが世の中を支配している可能性があります。私たちはスマホやパソコンを手放すことができなくなっている。Googleのスケジューラーを元に動いていますが、そこに何らかの意図があるかもしれません。

 でも、人間は人間で幸せに生きていくだけなんです。心配することはないと思っています。その上にAIが来る可能性があるというだけです。根本的に価値観が違うので、人間はずっと幸せなままなのです。

ーーAIを怖いと感じる人も多いと思います。

石黒:新たな技術を恐れるというのは、人類の歴史においてずっと繰り返されてきたことでした。今さら心配してもしょうがない。産業革命期のイギリスでは、労働者が機械を破壊するラッダイト運動が起こりました。なぜ人々が不安になるかというと、新たな技術が生まれると、自分よりも能力が高く仕事を奪われると思うからです。でも人間は結局、新しいテクノロジーを使うトレーニングして、新しいテクノロジーを使ってより効率的に活動できるようになってきたのです。AIにおいても、同様のことが起こるだけでしょう。

ーー今回、人間よりも高い知性を持つかもしれないのは、初めてのことではないですか?

石黒:それも歴史の流れでは当たり前なんです。例えば、走るという行為を考えると、自動車が発明されて以来、人間はまったく敵わなくなりました。でも誰も自動車とかけっこ競争をしないでしょう。陸上選手も自動車に負けて絶望するなんてことはない。それと同じように、知能も人間だけに特別な能力じゃないんです。何かを覚えるとか、統計的に推論するということは、AIのほうが遥かに上をいっているでしょう。

ーーChatGPTを実際に使ってみても、人間よりも遥かに優秀であるように思います。

石黒:ChatGPTは研究者ですら、なぜ動いているのかはっきりわかっていません。ニューラルネットワークのプログラムを大きくしたら、ある時突然喋り出したわけです。そもそも我々は、言葉とは何かという本質を理解できていない。プログラムを大きくするだけで、これほどまでに喋れるようになるとは思ってなかった。でも急に喋れるようになった。人間とよく似たものに脳味噌を大きくしながらどんどん情報を与えていったら、急に喋っちゃったような感じ。ある臨界点を超えたということかと思います。

ーー石黒さんの研究でも、ChatGPTを取り入れているそうですね。

石黒:ChatGPTは面白い。今、学生たちと一緒に研究しています。例えば、ChatGPTがどこまで賢いか、どこまで人のように振舞えるか。人間の認知過程とは何が違うか。ロボットに実装した時にどういう感覚を与えると、急激に人間らしくなるのかとか、興味は尽きないです。

ーー現状のChatGPTの弱点は何だと思いますか。

石黒:あれは一人の人格じゃなくて、多くの人間が書いたこと喋ったことを学習しているので、個性的なことを言わないわけです。また、ChatGPTでは、自殺の方法など危険な内容も答えてしまわないように、かなりのトレーニングが施されています。そのため、話せる内容にはかなり制限がかかっています。

ーーChatGPTの次のステップとは?

石黒:マルチ・モーダルでしょう。画像、音声、動画などを処理することで、見たり、聞いたりが全部できるようになる。ある画像をみて「ここにこれが写っていて、あそこには何がありますね」などと内容を話し出します。もうそろそろ、出てくるでしょう。

ーー石黒さんが生きる上で面白いと思うことは何でしょう?

石黒:まだ自分が知らない、新しいことを発見することです。だから私は褒められるのは嫌いなんです。何の情報もないんだよね。何がいいかぐらいは自分でわかっているので、あなたにほめてもらわなくていいんだと。「あんたのここが悪い」と言ってもらったほうが、遥かにいいですよ。

ーー本書で石黒さんは自身の生には執着されていないと書いていました。

石黒:あまりないですね。生に執着するというのは、過去の自分や明日の自分に執着をするということでしょう。今を目一杯生きていればいいんじゃないですか。そしたら、いつ死んでもいいじゃないですか。そのように思えるような生き方をしたいと思っています。

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