若手ミステリ作家・阿津川辰海、なぜ読書家を唸らせる? “想定外”の学園ミステリ『午後のチャイムが鳴るまでは』の創作秘話

阿津川辰海『午後のチャイムが鳴るまでは』が凄い!

ーー最終話の第5話「過去からの挑戦」は、意外にも教師が主人公です。

阿津川:最後は教師視点での物語にしようと決めていたので、 それまでのエピソードの中では先生をちょっとずつ出すようにしていました。伏線回収だけだと面白くないからと思い、校舎の屋上にある天文台を舞台にした、第5話だけの謎も用意しています。

ーーびっくりするような事実が明かされていきます。

阿津川:第5話を書くのは大変でしたが、書いていて一番楽しく充実していました。でもタイトルがなかなか決まらなかった。『都会のトム&ソーヤ18 未来からの挑戦』を見ていたときに、「5話は過去の話をしようとしているんだから、ひっくり返せばいい」と閃いて、ようやく着地した感じです。

ーーはやみねかおるさんといえば 阿津川さんがミステリ小説を書くきっかけをくださった方ですよね。

阿津川:小学生の頃にミステリを読むきっかけになった作家さんです。中学時代には講演で学校にお招きしたこともあって、これまで書いてきた作品にもさまざまに影響を受けています。

「高校時代の体験は全て使い果たしたかも(笑)」(阿津川辰海)

――『午後のチャイムが鳴るまでは』は、ご自身の体験も反映されているのでしょうか?

阿津川:はい。文芸部もそうですし、私が通っていた九段高校(現・九段中等教育学校)にも屋上に天文台があって、一年間だけ天文部にも所属していました。今回の作品で、高校時代の体験を全て使い果たしたんじゃないかってぐらい、盛り込んでますね(笑)。

――阿津川さんのお話を伺うと、とても豊かな学生時代を過ごされたのだなぁと感じます。

阿津川:うーん、そうですね……あとがきにも書きましたが、キラキラはしていませんでしたね。文芸部も、一時期男子は私ひとりでしたし、孤独に本を読んでいました。ただ、人には恵まれていたと思います。数は多くないですが一緒に麻雀やゲームに盛り上がる友人がいて、中学時代は図書館の司書さんとの出会いもありました。

――以前、web本の雑誌の「作家の読書道」でインタビューさせていただいたときに伺った、司書さんですね。

阿津川:私が伊坂幸太郎さんや恩田陸さんを借りまくっているのを見て、綾辻行人さんの『十角館の殺人』、乾くるみさんの『イニシエーション・ラブ』、歌野晶午さんの『葉桜の季節に君を想うということ』を薦めてくれて、おかげでミステリの面白さに目覚めました。当時、中2の頃は、学校に行くのがとてもつらい時期だったので、図書室だけが登校のモチベーションでした。「今日がんばって学校に行けば、霧舎巧の次の本を借りられるしな……」とか。

――東川篤哉さんが「晴れ晴れした気分になれる学園ミステリ」と評されていましたが、手ごたえはいかがですか?

阿津川:この3年間ずっと考え続けてきた作品で、学校全体を使って群像劇を描くという意味でも非常に達成感がありましたし、いい作品集になったと思っています。

第2弾のプロットがすでにある!?

――また学園ものを書く予定はありますか?

阿津川:じつは、この九十九ヶ丘高校シリーズの第2弾のプロットはもう出してあるんです。

――えっ、本当ですか!? 

編集:はい、まだ『午後のチャイムが鳴るまでは』が校了していない段階で、次作のプロットを頂いて。編集としては嬉しい限りですが、阿津川さんはどれだけ引き出しが豊かなのだろう、と恐ろしくなりました(笑)。

阿津川:『午後のチャイムが鳴るまでは』は文化祭前の昼休みの物語だったので、次は文化祭の話になる予定です。米澤穂信さんの『クドリャフカの順番』にも、似鳥鶏さんの『いわゆる天使の文化祭』にも挑まないといけないという。

――文化祭が舞台のミステリといえば、の2作品ですよね。

阿津川:まだ詳しいことはお話できないのですが、「そうきたか!」というアイデアを温めているところです。

――それは拝読が楽しみです!

阿津川辰海(あつかわ・たつみ)
1994 年東京都生まれ。東京大学卒。2017 年、新人発掘プロジェクト「カッパ・ツー」によ り『名探偵は嘘をつかない』でデビュー。以後発表した作品はそれぞれがミステリ・ランキ ングの上位を席巻。2020 年、『透明人間は密室に潜む』で本格ミステリ・ベスト 10 第 1 位に輝く。その他の著書に、『星詠師の記憶』『紅蓮館の殺人』『蒼海館の殺人』『入れ子細 工の夜』『録音された誘拐』がある。2023 年、『阿津川辰海 読書日記 かくしてミステリー作家は語る〈新鋭奮闘編〉』で第 23 回本格ミステリ大賞《評論・研究部門》を受賞。

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