【漫画】初めて誰かを好きになった少女と、昔誰かを好きになったことがある老人ーー対照的な二人の物語『悼みと初恋』
ディズニー作品からの影響
――本作は制作しようと思ったタイミングは?
柏木:当時は商業連載の仕事が一段落して、9月のスケジュールに若干の余裕が出てきた時期でした。そこで「前々から描きたいな」とは思いつつも、「ページ数が多くなりそうな」と思って敬遠していた本作を制作しました。
――高齢男性と女子小学生、それぞれの“好き”を巡って描かれるヒューマンドラマでした。
柏木:昔のディズニーのアニメシリーズで、『リセス』という作品があります。その中のあるエピソードで、普段は厳しい先生が、初恋の感情が原因で恥をかいて苦しむ女生徒に寄り添って、その感情を肯定してあげるシーンがあります。それがさり気ないのですが、すごく素敵なシーンだったので、そこから着想を得て本作を作り上げました。
――そのシーンからメインを老人と少女にしようと?
柏木:老人と少女の関係の始まりは、過去に描いた短編漫画『ハトにエサをあげる老人とそれを注意する女の子のお話です』という作品で描かれています。同作を読んでもらえれば、本作の老人のラストシーンの台詞の意味もより解るようになるので、良かったら読んでみてください。
ラストは描き直した
――性別も年齢も異なる2人の表情を描くうえで意識したことを教えてください。
柏木:女の子は「せっかくだからかわいく描こう」といつも意識しています。うまくいってるかは自信がありませんが。老人のほうは、「無表情のようで眉や目線や口角、手の動きで感情が動いてるのが伝わったらいいな」と思いながら描きました。
――表情で言いますと、2人の悲哀に満ちた表情が描かれており、読んでいるこちらも胸がキュッとなる思いになりました。少女がみじめさを覚えて涙を流すシーンはどのようにして描きましたか?
柏木:「涙をどのタイミングで流すのか?」ということは、個人差はあれど性別や年齢によって違いがあると思います。女の子の場合、この子にとって唯一自分のことを話せる相手が老人なので、話しているうちに惨めな気持ちが込み上げてきた時、「この人の前だったら涙を見せてもいいかも」という無意識の線引きがこの子の中にあったと判断して、みじめさを感じたあの場面で泣いてもらいました。
――一方、老人がお墓の前で涙を流すシーンは?
柏木:「男は人前で泣くもんじゃない」という教育を受けてきた世代だと思うので、別れた妻の死のことは誰にも話さず、墓前でひっそりと泣いてもらいました。
――「いずれ一人に…みじめになる…俺のように」「愛を感じられた人生は、そうでないよりきっと良い」など、おじいさんの言葉にはとても重みがあったので、読んでいてより深く胸に刺さりました。
柏木:それらのセリフをどのタイミングで入れるかがキモのお話だと思っています。脳内で何度もリテイクを繰り返し、なるべく正解に近い選択肢を模索する地道な作業が大変でした。
――ラストはおじいさんの不器用さを感じながら、ほっこりとするものでした。
柏木:最初はラストシーンで息子側から和解を提示する展開を想定していたのですが、老人が自ら一歩を踏み出さないと物語の意味がないと判断して、最後の2ページを描く前日に舵を切りました。結果的には「前作とのつながりも出て良かった」というように作者的には思っています。
――最後に今後の目標など教えてください。
柏木:Xだけでなく『FANBOX』と『Fantia』でも毎月1本短編漫画を公開しています。本作で女の子が好意を寄せた男の子が主役の『尊敬に値する』という物語もそちらで読めます。また、120本くらいの短編漫画を500円で全部読めますので、ご支援いただけると嬉しいです。生活がシンプルに助かります。
柏木大樹さんの作品はこちら
『ハトにエサをあげる老人とそれを注意する女の子のお話です』:https://x.com/kasiwagidaiki/status/1542463101164933122?s=20
FANBOX:https://kashiwagidaiki.fanbox.cc/
Fantia:https://fantia.jp/fanclubs/40715