『ブルーロック』潔世一はなぜサバイバルレースを勝ち抜ける? 想像力と再現性の“ハイブリッドストライカー”に迫る
青い監獄と呼ばれるサッカー施設「ブルーロック」に集められた300人の選手がふるいにかけられ、世界一のストライカーを目指すデスバトルサッカー漫画『ブルーロック』(原作:金城宗幸/漫画:ノ村優介)。本作の主人公、潔世一はいかにしてこの強豪ひしめく究極のサバイバルレースを勝ち上がったのか。彼の魅力に迫っていきたい。
全国大会を目前にした。全国高校サッカー選手権県大会決勝。FWの一角として出場した試合で自ら作り上げた絶好のシュートチャンスにおいて、潔はより確実性の高い味方へのパスを選択する。しかし味方は格好のチャンスを外してしまい、そのままチームは敗退してしまう。あの時、もし自分がそのままシュートをしていればーーそんな潔の後悔から彼の物語は始まっていく。
世界一のストライカーを目指すには、世界一のエゴイストでなければならない。ブルーロックの総指揮を担う絵心甚八の言葉に感化され、潔は青い監獄という特殊な環境で劇的な進化を遂げていくことになる。
過酷な世界で生き残る為の武器
潔世一は決してフィジカルに秀でたプレーヤーではない。圧倒的なスピードを持つわけでも、爆発的なパワーで差をつけるタイプの選手でもない潔の武器は、戦局の先を読む空間認識力にある。最もゴールの匂いがする場所をフィールド上の誰よりもいち早く察知し、ゴールを奪うための最善手を最短で射抜くことで結果を出してきたのだ。
「ワンタッチゴーラー」というサッカー用語がある。ゴール前でのダイレクトプレーや極小のタッチ数でゴールを奪うことを得意とするプレーヤーを指す言葉だ。この手のタイプのプレーヤーはゴール前でのポジショニング、DFとの駆け引きを制する動き出し、といったオフ・ザ・ボールの動きが非常に長けている。
一瞬で決定的な仕事を行うワンタッチゴーラーとしての特徴を持ち合わせている潔。作中では俯瞰の視点で空間を把握できる能力と、フィールド上に散らばったバラバラのパズルを完成させる最後のピースとも言える武器「ダイレクトシュート」を掛け合わせることで他プレーヤーとの違いを創り出すことに成功したのである。
刻一刻と状況が変わるピッチ上において常に冷静に戦況を判断し先の先を想像し、描いたビジョンを現実のものとして創造するその再現性こそが潔世一をフットボーラーとして確固たる地位に至らしめている所以と言えるだろう。
ここで、サッカーの試合で実際に選手がボールに触れられる時間について解説しておきたい。90分のゲームの中で1人の選手がボールに触れている時間は約2分と言われている。
ストライカーと呼ばれる前線の選手達は、その僅か2分あるかないかの時間に全てを懸けて結果を出さなければならない。そう、真剣勝負の世界では「急にボールが来た」と狼狽えている暇はないのである。