『ONE PIECE』エースとサンジにはなぜ”父親”が2人いる? 対照的に描かれる2つの家族像
ときに呪いとなる血縁上の親子関係
『ONE PIECE』の疑似家族を振り返ると、ほとんどが“無償の愛”として描かれていることに気づく。それに対して血でつながった親子は、なぜか利害関係を強く反映した、冷酷なものとして描かれがちだ。
この対称性を強く反映しているのが、サンジをめぐる家族描写だろう。サンジは幼い頃にゼフに命を救われ、一流の料理人として育て上げられたことで、彼を本当の父親として慕うようになった。どんなことが起きても女性に手を上げないというポリシーも、ゼフから叩き込まれた教えだ。
一方で、実の父親であるヴィンスモーク・ジャッジとサンジの関係は険悪極まりない。ジャッジは子どもを戦争の道具として見ており、非人道的な手段で改造人間に仕立て上げている。そしてその期待にそぐわなかったサンジは“汚点”扱いし、絶縁に至った。
また、一見すると愛情深く見えるビッグ・マム一家の関係も歪だ。ビッグ・マムは表面上、子どもたちを愛しているのだが、その一方で自身の地位のために子どもを政略結婚させたり、兵隊として使ったりと、冷酷な面を兼ね備えている。政略結婚を破談させた23女のローラに対しては「背徳娘」と罵っており、子どもを一種の所有物として捉えている節があった。
そしてワノ国のカイドウは、実子であるヤマトを自分の思想に従う兵士にすることを狙っていた。幼い頃から幽閉という強制手段をとることも辞さなかったほどだが、それが仇となり、成長したヤマトから絶縁宣言されてしまう。
血がつながっているからといって、その絆は絶対ではない。むしろ血縁に甘んじて、利己的な関係を築こうとすれば、子どもにとって呪いとして働く。逆に血縁がなくとも、愛があれば誰よりも深い絆が生まれる──。尾田が“家族”の両義性を強調することの裏には、そんなメッセージが込められているのかもしれない。