【漫画】芸大を卒業後、成功した友人と再会して……ほろ苦い友情を描いた漫画『偶然みたいな顔した運命』

ーー本作は結城綾香さんの楽曲『signals』が題材となっていると伺いました。本作を創作した経緯を教えてください。

勝見ふうたろー(以下、勝見):あるとき結城さんよりTwitterをフォローしていただきました。そのあと文面でやり取りしたりビデオ通話で話すなかで、音楽と漫画でなにかをつくれたらいいですねという話になりました。

 そのとき僕から楽曲を題材として漫画にするのはどうでしょうと提案し『signals』を題材とした本作を描くこととなりました。

ーー楽曲『signals』を題材に、創作に携わる人物や友人への嫉妬を描いた背景は?

勝見:結城さんに『signals』を通じて伝えたかったことを聞き、本作の物語をつくりました。やりたいことをやってみたけれど、満足のいくようなものをつくれない。今は昔ほど表現活動に関わっているわけでもない。けれど今は今で、自分のペースでつくりたいものをゆっくりつくっていきたい。それが本楽曲のメッセージでした。

 楽曲のメッセージを聞き、芸術大学出身である自身の境遇と重なるものを感じました。ただ自身の過去を描くことは勇気がいることで……。

 友人が表現者としてちかくに居る環境のなかで劣等感を抱くことが多く、妬み嫉みを抱えながら大学生活を送っていました。そんな思いを曲の力を借りて、できる限りしっかりとしたかたちで描いてみようと思いながら本作を創作しました。

ーー印象に残っているシーンを教えてください。

勝見:本作の舞台は主人公の部屋や夢の中の世界を除いて、過去に僕が過ごしたことのある場所です。思い出語りのような作品であるため、当時の空気感を読者の方にも味わってもらえればと思い実在する風景を描きました。

 ふたりが再会した場所は須磨海浜公園をモデルとしており、サイン会の会場は、現在は閉館してしまった須磨海浜水族園をモデルにしています。どちらも大学在学中の思い出が詰まった場所であり、ふたりが会う場所としてこだわりをもって描きました。

ーー短歌を作品のモチーフとした理由は?

勝見:俳句や短歌など、僕が言葉を用いる表現技法が好きだったことが理由の1つとして挙げられます。そして楽曲を題材に漫画を描くうえで「歌うこと」と「詠うこと」が重なると感じたことも理由の1つです。短歌を作品の要素にするとどんな漫画が生まれるのだろうと思いながら本作のテーマとして短歌を選びました。

 また本作を描き終えたあと、短歌には上の句へのお返事として下の句を詠むという遊びがあることを知りました。上の句ができたあとに時間を置いて下の句を詠むということが、時間をおいて友人に会う本作の物語と重なることもあると思い、図らずも本作のモチーフとして短歌を選んだことに意味はあったのかと振り返っています。

ーーふたりが再会した海辺のシーンについて教えてください。

勝見:ときに僕はこどもと大人の線引きの曖昧さを考えることがあり、そのことを本作のオサムに込めました。オサムは天真爛漫なキャラクターとして描いていたのですが、彼は急に大人になってしまった人物、受賞したことによって急に大人の世界へ引き込まれた人だったと思います。

 砂浜でふたりが会うシーンを描くなかで、オサムは無邪気な素振りをしているけれど、カズオの前で緊張しているという、精神がギリギリな状態を描きたいと考えていました。こどもっぽく見えるけれど、商業的に作品をつくるオサムの大人になった部分が露呈してしまう様子を描ければと思ったからです。

ーークライマックスで詠まれた「またいつか/幼子のように信じてる/偶然みたいな/顔した運命」について教えてください。

勝見:“幼子のように信じてる”には無知で無垢なこどものひたむきさを込めました。また“偶然みたいな顔した運命”には上の句とは対照的に大人っぽさを込めました。

 僕は運命でこの世界ができていると知ったとき、言い換えれば過去を振り返れるようになったときに自身の過去について考え、なにかに気づいたときに大人になっていくのかと考えています。

 “偶然みたいな顔した運命”という大人っぽいことを“幼子のように信じている”。当時のオサムのこどもか大人かといった曖昧さを表現できればと思い、この詩を詠んでいます。

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