【漫画】女子高校生との野球対決! 初期衝動あふれる青春漫画『バーサス・アンダースロー』が面白い
――本作は14年前の漫画ですが、なぜ改めて投稿されたのでしょうか。
相田裕(以下、相田):先日、過去作『1518! イチゴーイチハチ!』が2回目の舞台化となり、そこから新たに漫画を読んでくれる方が多いんです。その方々に元になった読切作品を紹介できればと思ってツイートしました。昔からのファンの方も拡散してくださったり、とても嬉しいです。
――改めて自身にとってどんな作品だと考えていますか?
相田::うーん、難しいですね(笑)。すごい大切な作品であることは間違いなくて、その後の連載作品『1518! イチゴーイチハチ!』にも繋がる出発点。当時はシリアスな『GUNSLINGER GIRL』を連載していて、息抜きに違うテイストの漫画を描きたいと思っていたんです。
思い付きで始めて、3日間くらいで描いてしまいました。個人的に考えるとそんなスピードで普段は描けないんですが……。その時は内側のエネルギーが高まっていたんですね。個人的には「勢いで描くんだから、殴り書きでもいい」くらいの気持ちで始めたら、筆が乗ってしまったという感じ。同人誌として出版する以上読者を考えなくてはいけませんが、「背景の書き込みなどが甘いと怒られる」というプレッシャーがないのは安心でした。
――ラフな感じが疾走感や爽やかな印象をもたらしている気もします。
相田:そうですね。コマ割りやページの使い方は一発勝負でしたが、作品に謎のエネルギーが吹き込まれたなと。幸せな読み切りでしたね。あれを再現するのは本当に難しい。あの心情の自分じゃないと出せない要素が詰まっているなと感じます。もう一度こんな漫画を描いてみたいけど、出せる自信がない(笑)。
――「生徒会長がアンダースローの名手だった」という脚本も、このスピード感のなかで生まれたのですか。
相田:最初は皆既日食を観に山に行く、という高校生の日常を描こうと考えていたんですよ。でも、もっとドラマティックなものにしたくなってきたんです。ちょうどプロ野球の観戦にハマっていた時期だったので野球、それから生徒会も要素に入れたいなと。断片的なアイデアを集めてできたストーリーでしたが、そこまで苦労した記憶はありません。割とすぐ閃いたはずです。
大変だったといえば、10ページ目の生徒会室の風景は頑張りましたね。自分が高校生の時に生徒会だった頃の部屋を思い出しながら描いていて、長机の上が雑然している感じなどは雰囲気を出せているなと今見ても思います。
――「今だったら、こう描いたな」と感じる点はあります?
相田:野球対決の部分はもっとコマを大きくして、アクションの迫力が出るような表現にしたかなとは感じますね。人によると思うのですが、僕はコマの割り方の好みが徐々に変わっていきました。若い頃はコマを大胆に使えないタイプだったんですよ。たまに思い切った気持ちになって、やっと1ページに1コマくらいが精いっぱい(笑)。今ならワイドに使って、見開き1コマとかもやっているはずです。
あと本作は25ページという漫画的にはキリの悪い枚数なんですよね。もし時間があればページ数を足した、きれいなオチにしたはずです。個人的には尻切れだと思うのですが、これはこれで独特な抜け感の雰囲気があるエンディングだと評判がいいんです。本作のようにトーンを使わない、生き生きしたタッチの新作はいつか描いてみたいですね。