橘ケンチ「人生における究極的な課題は人間関係」 ベストセラー幸福論『グッド・ライフ』とLDHの共通点

橘ケンチが語る、幸福論

お互いをいかに高め合っていけるかが大事

――本著の話に戻ると「幸せになるのに、遅すぎることはない」という考え方も大事だと感じました。昨今は「〇〇ガチャ」という言葉が象徴するように、生まれた環境や幼少期のトラウマなど、自ら選ぶことができないことの影響で人生を踏み外す可能性があると指摘されています。しかし本書は、たしかに幼少期のトラウマなどは人生に影響するものの、良い人間関係を持つことで成人期に課題を克服することはできるし、困難な経験はむしろその人の個性や強みに繋がると説いています。

橘:困難に直面したときは、それに対してどう考えていくのかという対処方法が大切ですが、そこで経験が活きるのだと思います。困難に対する免疫がないと、ちょっとしたことでも「人生終わった」と必要以上に落ち込み続けてしまう。それを才能で乗り越えられる人もいるかもしれないし、時間をかけることで乗り越える人もいるかもしれない。ただ、本書では人生の晩年でも、考え方や人間関係の捉え方次第で幸福になれるとしています。

 幸せは遠くにあって、頑張って掴み取るものだと考えられがちですが、実はすでに身の回りにあるもので、自分がどう感じるか次第なのかなとも思います。以前に読んだ本で、「人が変わるには自分が死にそうな目に遭うか、身近な人の死に接するか、刑務所に入るかしかない」と書かれていましたが、それは逆説的に、実は自分が恵まれているということに気づけない人が多いということかもしれません。本当の不幸にあって、はじめて大切なものに気づくことができるというか。

――人間は老年期になると、幸せを感じるのが上手になるともありました。

橘:そうだと思います。犬の散歩をしていて「可愛いねえ」と言ってくれるのは、60歳以上の人が多くて、みなさん本当に嬉しそう(笑)。ちょっとしたことでも幸せを噛み締められるようになるんでしょうね。

――本書では、パートナーとの関係を「心のダンス」と表現している箇所があります。パフォーマーとして、この部分はどう感じられましたか。

橘:喩えとしてダンスが使われていましたが、個人的にその考えは興味深かったです。寄り添い、許容し合うこと。呼吸を感じながら、究極的にはどちらがリードする訳でもなく自然と息が合っていく。そこからいいスパイラルに流れていくというのが理想的なパートナーとの関係性ではないでしょうか。本当に夫婦でダンスをしてみても面白いと思います。

 今ダンスが流行っているのも、向かいあう人のバイブレーションを感じたいというか、非言語的なコミュニケーションの楽しさを知る人が増えてきたからなのかもしれません。プロだけでなく、一般も含めて共感できるツールになってきたことは、ダンサーとしては嬉しくもあり、不思議なことでもあります。

――電車内で見知らぬ人と会話をするという実験をしたところ、それだけでも幸福度が上がるという結果もありましたし、やはり対人のコミュニケーションの力は大きいですよね。

橘:会話もセッションですからね。お互いをいかに高め合っていけるかが大事で、想定していなかったこともポジティブに受け入れられるかが大切です。性別や国籍を問わずにそれができたら、人生はもっと豊かになっていくと思います。

 ところで先輩のMAKIDAIさんはMCをやっていた時期に、たまたま乗ったタクシーの運転手さんとの会話をどこまで盛り上げられるかに励んでいました。MAKIDAIさんらしい素敵なエピソードですが、あのユニークな行動もまた科学的には正しかったんだなと思いました(笑)。

■書籍情報
『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』
著者:ロバート・ウォールディンガー、マーク・シュルツ
発売日:6月20日
価格:1,870円(税込)
出版社:辰巳出版(&books)

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