「ガーシーの涙は嘘泣きではない」 物議を醸すガーシー本『悪党』著者に訊く、その人柄
『ガーシーチャンネル』の動機は怒り
ーー先ほど、家宅捜索にガーシーが涙したのも、嘘泣きではないと指摘していました。
伊藤:あの涙は演技などではなく、自分の感情に真っ直ぐなガーシー氏らしさの一端でしょう。トルコ被災地で人々の助けになりたいというのも、単なるパフォーマンスではなく、本音だったと思います。こうだと思い込んだらすぐに行動に移すし、「アラブの王族になりたい」など荒唐無稽なことも言い出す。漫画の『ONE PIECE』や『水滸伝』に自分を重ね合わせているのも冗談で言っているわけではないでしょうし、実際にそういう考えを口に出すことで、自らのマインドを誘導するというか、パワーに変えているところがある。暴露についても、相手に悪口を言われていることがわかって、憎しみの感情をグワッと募らせたが故の行動が始まりだった。本人も「瞬間湯沸かし器」だと自認しています。
ーー『ガーシーチャンネル』があっという間に多くの人々の関心を集めたのも、その怒りが本物で、告発に説得力があったからかもしれません。
伊藤:『ガーシーチャンネル』は喋りが巧いというだけじゃなく、真に迫るところがあった。初期の頃は特にそうだったと思います。元々は借金を返すための苦肉の策だったけれど、芸能人の友人に裏切られたという怒りもまた『ガーシーチャンネル』の大きな動機になっていた。ガーシーはたまたま芸能界との繋がりがあって、YouTubeで告発するという奇策に出たわけですが、個人が発信できる現代においてはいずれ誰かがやっていたことで、ガーシー的な発信者が今後さらに増えていくのは間違いないと思います。
ーー改めて『ガーシーチャンネル』は世の中にどんな影響を与えたと捉えていますか。
伊藤:ガーシー氏は世の中を混乱させましたが、「国会議員は登院してさえいれば、それで議員資格があると言えるのか」という根本的な問いを投げかけたことや、芸能人の夜の遊び方がどうあるべきかなど、一定の意義があったはずです。ガーシーが登場したことで改めて浮き彫りになったメディアの問題もあります。その意味で、ガーシーはすでに一定の役割を果たしているとも言えるでしょう。本書ではガーシーを、世の中をかき回す「トリックスター」だと位置付けていますが、そういう存在は古来から幾度も現れてきたはずで、彼らによって社会は初めて問題を認識し、前に進むこともできる面がある。この本にあえて『悪党』というタイトルをつけたのは、本当にガーシーは単なる“悪党”だったのか? という問いを込めています。ガーシー現象が内包する複雑な社会のありようが垣間見えるノンフィクションとして、時代の記録にもなっているはずです。