山田孝之主演のアニメ『夜廻り猫』は"再生の物語” 行き場のない悲しみ寄り添う話題作の魅力

アニメ『夜廻り猫』は"再生の物語”

 3月20日深夜(21日1:35~)より、NHK総合テレビにて放送開始されるアニメ『夜廻り猫』(深谷かほる)。原作はTwitter連載から一躍話題となり、2017年には「手塚治虫文化賞」短編賞を受賞した同名タイトルの8コマ漫画だ。「泣ける」「心が温まる」など、多くの漫画ファンから支持を得ている本作だがその魅力とは?(ちゃんめい)

 グレーの毛並みにきらりと光る黄色い目、渋い抹茶色の半纏を纏い、頭の上に缶詰の帽子をかぶった野良猫"遠藤さん”こと遠藤平蔵。この遠藤さんこそが本作の主人公で、毎夜「泣く子はいねが~?」の掛け声と共に街をパトロールする“夜廻り猫”だ。

 言わずもがな秋田県のナマハゲを彷彿とさせる掛け声だが、遠藤さんは子供を驚かすためでも、ましてや悪霊を祓うために言っているのではない。「泣く子はいねが~?」を合図に、社会の中で誰にも言えない想いを抱えている人間特有の“涙の匂い”を嗅ぎ取っているのだ。

 そうして遠藤さんは“涙の匂い”を発する人の元にスッと姿を現すが、彼を目の前にした人間たちはどこかきょとんとしている。誰にも言えない想いを抱えているのだから、遠藤さんに対して「聞いてくれ!」と泣き崩れたり、怒り狂うなど、感情を剥き出しにしても良いはずなのに。そうできないのは、本当は夫婦関係に悩んでいる、会社や学校で嫌なことがある、自分の人生に自信が持てなくて悩んでいる........でも誰にもいえず、その想いが行き場を失っている状態だから。けれど、そんなやるせない想いを“涙の匂い”をたよりに丁寧に掬い取ってくれるのが遠藤さんだ。

 では、“涙の匂い”を纏う人間たちに遠藤さんは一体どんな言葉を投げかけるのだろうか。心に沁みる名言?それとも超論理的なアドバイス?.........そのどれでもなく、ただそっと寄り添ってくれるという表現が一番しっくりくる。

 例えば、遠藤さんはゆっくりと相手の話を聞いてあげることもあれば、優しい一言をかけたり、一方でただご飯を共にするだけの時もあれば、何もしない時だってある。そんな、なんとも掴みどころのない行動で、まるで現実世界の猫のごとく人間を翻弄する。けれど、その行動一つ一つには、行き場のない悲しみや痛みに寄り添い、それらの存在をしっかりと肯定してくれるような温かさがあるのだ。

 痛みを自覚するから傷や病に気付き、適切な治療を施すことができる。そんな人間の体と同じように、行き場を失った自分の中の想いに気付かなければ、傷を癒すのはもちろん、前へ進む方法だってわからない。遠藤さんは、一番大切な“自分の中の想いに気付く”という作業を、まるで「僕にはわかってるよ、いつも見てるよ」とでも言っているかのように支えてくれる。

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