元日向坂46・宮田愛萌 大好きな「万葉集」をテーマにした初小説集「和歌は自由、自分なりの解釈を大事にしました」
万葉集に少しでも興味を持ってもらえたら
——そもそも、宮田さんが思う万葉集の魅力って何なんでしょう。古語で書かれていると、とっつきにくさがあるようにも感じますが。
宮田 古典は昔から得意だったんです。古語だからって抵抗感は最初からなかったですね。何なら万葉集は、日本最古の和歌集と言われているだけあって、正しい現代語訳が分かっていない和歌も多くて。自分で古語を調べて解釈していく余地があるので、平安時代や江戸時代の古典文学よりも読みやすいような気がします。古典文法に苦手意識がある方でもトライしやすいんじゃないかな。
——なるほど。
宮田 それに、何といっても和歌ですから。どう読み取ろうが、解釈は自由なんです。今回、改めて万葉集に関する資料本を集めましたけど、やっぱり著者によって解釈はさまざまでした。「この人は、こんなふうに感じたんだ」って。そういう発見がたくさんあるのも、万葉集の面白さだと感じます。
実際に私も、本作の執筆にあたり参考にさせていただいた和歌については、自分なりの解釈を大事にしました。本作には、私が行なった現代語訳も記載させていただいているので、是非みなさんにも自由な解釈をしていただき、それと照らしあわせて楽しんでもらいたいですね。
——そう言われると、ムズかしく構えずにトライできそうな気がしてきました。本作には、万葉集の舞台である奈良での撮り下ろし写真も収録されています。撮影では、万葉集に関する資料がたくさん保管されている万葉文化館にも足を運ばれたんだとか。それら写真のあとに収録されている最後の短編「つなぐ」は、まさに万葉集のお話ですよね。
宮田 そうなんです! 高校生の女の子が進路のヒントを得るために、母曰く「自分と似ている」らしい、既に亡くなった母の妹・陽さんのことを知ろうと、母の実家がある奈良を訪問。母の実家で見つけた陽さんの日記をきっかけに、万葉集に興味を抱(いだ)くようになり……という、奈良での撮影がインスピレーションとなってできたお話ですね。
——誰かが見た景色や感じた気持ちが、残された日記をもとに後世の誰かに伝わる……。物語を通して、和歌の面白さそのものが描かれているように感じましたよ。
宮田 ありがとうございます。私自身、和歌には歌人の気持ちが素直に記されていると思っていて。先ほど「自由に解釈できるのが万葉集の魅力だ」って話をしましたけど、時を超えて、歌人の方が和歌で表現しようとした感情に共感できたとしたら、それってスゴく不思議な“つながり”ですよね。万葉文化館へ行って、そんな和歌の魅力を再認識させられたんです。改めて、私は万葉集が好きなんだなと実感できました。
——ちなみに、タイトルを「きらきらし」にされた理由は?
宮田 「きらきらし」は万葉集から引用した古語で、「美しい」「素敵だ」といった意味があります。万葉集に出てくる歌人の方の人生は、どれも「きらきらし」だと和歌を通して私が感じるように、本作を読んでくださった方に、私もあなたも、ひとりひとりの人生が「きらきらし」なんだと伝われば良いなって。編集さんからのアドバイスを参考に、このタイトルをつけさせていただきました。語幹がかわいいですよね。……ただ「ら」行の発音が苦手なので、自分でうまくタイトルを言える自信はないです(笑)。
愛萌流の読書習慣
——宮田さんの読書にまつわるお話も聞かせてください。まず初めに「私、読書好きだな」と自覚したきっかけは覚えていますか?
宮田 母が言うには、幼い頃から本さえ与えておけば大人しくしている子どもだったそうです。当時は恐らく、“本が好きだから読んでいた”というより、“そこに本があるから読む”みたいな感覚だったんですけど。
そんな調子でずーっと本を読んでいた中で、読書好きだとハッキリ自覚したのは中学生の頃ですかね。あれ、周りの同級生は意外と本を読まないみたいだぞ? どうやら私は、人より本を読む方なんだな、と気づいたことが大きなきっかけだったように思います。
——「読書好き」というと、上には上がいるというか。年間何百冊以上読んでいないと読書好きを名乗っちゃいけない、みたいな決まりはないですけど、自信を持って「好き」と言えない感じはありますよね。
宮田 そうなんですよ。きっと「私は人より本を読む方なんだ」という気づきが、読書好きを名乗る自信になったんだと思います。それ以降、日向坂46に入ってからも、自己紹介のときに「特技は読書です」と言ったりするようになりました。「それ、趣味じゃない?」のツッコミ待ちで(笑)。
——あはは。実際、どれくらい読まれるんですか?
宮田 うーん、数えたことがないので分からないです。ひとくちに読書といっても、ちゃんと1冊と向き合う“本気読書”もあれば、サラッと読むだけの“遊び読書”、何かのついでに読む“ながら読書”など、種類があるんですよ。“本気読書”だけでいうと、最近は1日3冊が限界なので、そんなに数は多くならない気がします。
——内容やページ数にもよりますけど、1日3冊も本気で読めたら多い方じゃないですか?
宮田 小中学生の頃は、1日8冊とか読んでいたので。だいぶペースが落ちました。
——1日8冊! それは確かに“特技”かもしれませんね(笑)。
宮田 当時は、常に新しい物語を欲していたんです。とにかく手もとに本がないと落ち着かない、みたいな。「この本を読み終わった後に読みたい本がなかったらどうしよう」って、読み始める前から読んだ後のことを考えていましたね(笑)。
今はそれほどじゃないですけど、どこか出かけるときには、カバンに必ず本を数冊入れちゃいます。出先で文庫本の気分にならないかもしれないので、ちゃんとハードカバーの単行本もセットで持ち歩くようにしていますね。
——本のサイズによって、読み心地は変わりますもんね。電子書籍は読まないですか?
宮田 最近、電子でも読めるようになりました。好きなのは、断然、紙の本ですけど! 紙の手触りに、文字のフォントや配置の工夫など、紙の本ならではのこだわりに触れるのが大好きなんです。紙の本は手の記憶とともに読書ができるので、前回ここまで読んだな、ここら辺に好きなフレーズがあるなと、すぐにパッと開けるのも良いですし。
今回出させていただく『きらきらし』も、実際に手にとっていただくと、角度によって、内側にピンクの挿し色が見えるんです。そういう繊細なデザインを楽しめるのが堪らないんですよね。
——これは、実際に手に取らないと分からないこだわりかもしれないですね。ちなみに、宮田さんが本を選ぶ際のポイントはありますか? “どんな本を読むか”って、“どんな本と出合えるか”だと思うんですよ。
宮田 結構、感覚なんですよね。一般的な大型書店に行くことがほとんどなんですけど、行くと、ある特定の本に呼ばれる感覚があって。それこそ運命の出会いみたいなものですよね。そうして無意識のうちにパッと目に留まった本を買うことが多いです。
面白いことに、同じ本屋さんで、同じ並びで本が置かれてあったとしても、日によって呼ばれる本は違うんですよ。だから本当に感覚です。“呼ばれる本の条件”なんてものも、特にないですしね。
——本屋さんには、結構頻繁に行かれるんですか?
宮田 そうですね。というより、時間が許す限り、近くに本屋さんがあれば必ず立ち寄ってしまいます。友達との待ち合わせ前にひとりで行って、友達とも一緒に行って、解散した後またひとりで行く、って日もありますね(笑)。さすがに友達との待ち合わせ前は我慢するものの、行ったら行ったで、一冊も買わずに帰ることはないです。だって、本屋さんにはまだ読んだことのない本がいっぱいあるから……。
宮田 私、ずっと千早茜さんが大好きなんですけど、ちょうど最近、千早さんの小説が単行本、文庫本ともに全部手もとに揃ったんです。それが嬉しくて、改めて発売順に読ませていただいているところなんです。初めて読んだときのこととか、小説に出てくるフレーズと自分の記憶がリンクするのが、また楽しくて。やっぱり大好きな本は、何度でも読み返しちゃいますね(笑)。
——本作も、誰かの何度も読み返したくなる一冊になると良いですね。
宮田 そうですね。そう、なれますかね? そうなってくれると幸せです。
“万葉集”と聞くと堅いイメージを持ってしまうかもしれませんが、ちょっとした休憩時間に読めるくらい一編一編は短いので、読書に馴染みがない方でも軽い気持ちでお手にとってもらいたいです。写真を見るついでに小説も読んでみるか、くらいの気軽さで。そうして少しでも万葉集に興味を持ってもらえると、私の望みは果たせたかなと思います(笑)。
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