トキワ荘の復元や漫画・アニメを生かした町づくりを推進 豊島区を聖地にした「高野之夫」の功績


 2月9日、豊島区の高野之夫区長が亡くなった。85歳だった。高野区長は今年1月1日に新型コロナウイルスに感染後、療養に務めていたが、肺炎のため帰らぬ人となった。

 高野区長と言えば、2022年12月に「西武池袋本店」の低層階にヨドバシカメラが入る計画に反対したことが記憶に新しい。6期24年の長い任期中、高野区長は「国際アート・カルチャー都市構想」を掲げて街づくりを積極的に推進したこともあり、豊島区の玄関口である池袋に対するこだわりは特に大きかった。

 豊島区に20年ほど住んでいるイラストレーターは、豊島区、特に池袋のイメージは高野区長のもとで大きく変わったと話す。

 「僕が暮らし始めたころの池袋は、東京芸術劇場のようなハコはあるけれど、まだ駅前がごみごみしている印象だった。商業都市というイメージで、文化的な雰囲気は決して高くなかったんですよ。それがここ数年の間に、漫画やアニメ、最近はコスプレの町として知られるようになったのは、高野区長の功績が大きいと思います」

 今では外国人アニメファンの間でも、池袋は、秋葉原や中野などと並ぶ訪問したい町の一つになっていると聞く。高野区長が漫画やアニメに理解が大きかったのは、かつて自身が「高野書店」という古書店を経営していたためといわれる。

 そんな思いが日本漫画史における最重要な聖地、「トキワ荘」の復元に繋がった。他の区長であれば、トキワ荘の復元は難しかっただろうという声は多い。トキワ荘の住人であり、漫画家の水野英子がこう語っている。

 「トキワ荘の復元に力をそそいで下さり、ミユージアムの展示などにもご自身が加わるなど大きなご協力をいただきました。心からのご冥福をお祈りいたします」

 一度取り壊されたトキワ荘の復元には賛否両論があったが、なぜそれほどこだわったのか。高野区長はハフィントンポストの取材にこう語っている。

 「私がトキワ荘の復元を考えた理由の一つには、アニメイト本店の存在もあるんです。(中略)アニメイトは全都道府県に店舗があって同じ作品は買えるのに、なぜ地方からわざわざ池袋本店を目指して多くの若い漫画ファンが来るのか不思議でした。アニメイトの経営者の方に聞くと『ここで買うということに意義がある』ということなんです。見ていると、本店の前で記念撮影をしている。『アニメイト本店に来たんだ』というのが一つのステイタスになるそうなんですね。『その場に来る』ということが非常に大事だと痛感しました」

 高野区長は23区の首長では2番目に高齢だったというが、アニメイトを豊島区の貴重な資源として考え、新しい文化を積極的に受け入れる姿勢をもっていたことも特筆される。魅力的な地域資源を発掘し、発信していくことは、これからの日本の町づくりに欠かせない視点だろう。次の区長もその遺志を継ぎ、漫画、アニメを生かした町づくりを推進してほしいと切に願う。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる