「LINEマンガ インディーズ」の「報奨金給付プログラム」がすごい プロジェクトリーダーが語るクリエイター支援制度への思い

    

 人気の電子コミックサービス「LINEマンガ」は、マンガ業界の未来を創るクリエイターが持続的に収益を得られる新しいサポートの仕組み「LINEマンガ インディーズ 報奨金給付プログラム(βテスト)」を開始している。しかも、この2月・3月は、参加するだけで5,000〜10,000円分のギフトカードが貰えるキャンペーンを開催中 


 「LINEマンガ インディーズ 報奨金給付プログラム(βテスト)」は、「LINEマンガ」の自由な作品発表の場である「LINEマンガ インディーズ」にて、月に2話以上の新規投稿がなされた作品に対し、“月間読者数”と“お気に入り登録数”による成果指標に応じて算出された報奨金を作家に給付。創作活動をサポートしていくという、初の試みだ。この取り組みはどのように生まれ、どのような目的を持っているのか。プロジェクトのリーダーであるLINE  Digital Frontier株式会社インディーズ 企画運用室室長 小室稔樹氏に現状のウェブトゥーンや電子マンガのトレンドも含めて話を聞いた。

“作家不在”のウェブトゥーンブームを変えるために

ーー昨年はLINEマンガが力を入れている「ウェブトゥーン」が飛躍した1年だったように思います。その活況に対してどうお考えですか。

 確かに、「ウェブトゥーン」というキーワードが世の中で一般化してきたと思います。一方で、作家さんにとってウェブトゥーンとはどういうものか、ということはあまり広く認知されておらず、「実際にどうやって作るのか」「どうやって収益を上げていくのか」というのがまだまだ知られていない状況です。そのなかで、作家さんも混乱されている部分があるのではないかと。どちらかというと事業者たちがウェブトゥーンに対して白熱しており、実際に制作するクリエイターさんたちがやや置いてきぼりになっているように思うんです。われわれにとって、ウェブトゥーンが読者にとって身近なものになってきたことはうれしくもあり、同時にこの状況に危機感を持っていて。作家さん不在でウェブトゥーンが盛り上がることが、果たしていいことなのかと。ですから、ウェブトゥーンが実際にどんな市場で、世界的にどうなのか、制作スタイルがどうなのかということもしっかりお伝えしようと意識しています。

ーー確かに、ウェブトゥーンに特化したスタジオができた、大手出版社が参入した、というニュースはよく見ますが、作家目線での情報はあまり多くないように思います。

 そうですね。作家さんにとっては、当然ながらウェブトゥーンでどうやって自分の生活費が賄えるのか、ということも大事だと思うのですが、日本は紙の出版が非常に成長してきた国ですので、「どうやって本になるのか」「スタジオ制ってどういうこと?」という状況だと思います。「ウェブトゥーン=スタジオ制作」というところにも誤解がありますね。

ーーそうですね。一般的にアニメーションのようにスタジオ制作が主流なのかな、というイメージがありますね。

 実は、ウェブトゥーンが席巻している韓国でも、個人の作家さんが7割くらいを占めているんです。おそらく、日本で一番ヒットした作品がスタジオ制作だったことで、これまでマンガにかかわってこなかった事業者さんたちが、「こういう文脈だったら自分たちにも作れるのではないか」と考えられたのだろうと。例えば、ゲーム会社さんなら「ゲームを作るより費用を抑えてIPを作れるのではないか」ということで、スタジオがどんどん広がりウェブトゥーンのスタジオを作れば会社の価値も上がってしまうような状況もあるようで、市場も「ウェブトゥーン」というキーワードに非常に敏感になっているなかで、一番大切な作家さんがその話題にジョインできていないことがもったいないと考えています。

日本でヒットしグローバルに展開する仕組みをつくりたい

ーーなるほど。その意味で、LINEマンガ インディーズの取り組みは、個々のクリエイターにフォーカスして、作家とウェブトゥーンをつなげるものですね。

 そうですね。われわれはグループ全体で世界一大きいウェブトゥーンのプラットフォーム(=WEBTOON Worldwide Service※)を持っており、かつ日本の才能が世界にチャレンジできるチャンスはまだまだあると考えています。作家さんにとってはまだライバルが少なく、現状でウェブトゥーン作家として名を馳せている方は多くありません。レジェンド作家が大勢いるページマンガに比べると歴史が浅い分、大きなチャンスがあるんです。そこでチャレンジする作家さんが増えて、日本でヒットして、グローバルに繋がっていく……という流れを作れるのは、現状では私たちしかいないのではないかと思っています。

(※)全世界に向け10カ国語でサービス展開する、電子コミックを中心としたプラットフォームの連合体。代表的なプラットフォームは、「LINEマンガ」(日本/LINE Digital Frontier株式会社)、「WEBTOON」(北中南米・欧州/WEBTOON Entertainment Inc.)、「NAVER WEBTOON」(韓国/NAVER WEBTOON Ltd.)、「LINE WEBTOON」(東南アジア)など。各プラットフォームを合算した月間利用者数(MAU)は8,900万、累計ダウンロード数は2億超、ひと月の流通額は100億円を超え、同市場で圧倒的な世界1位の規模を誇る。

ーー日本はこれだけ多くの優れた漫画家を輩出してきた国ですから、そこがまだウェブトゥーンと繋がりきっていないだけで、才能の宝庫であるはずですね。

 そうなんです。また、これは誰が悪いわけではないのですが、ウェブトゥーンはどうしてもページマンガと同じ土俵で考えられがちです。そうではなく、音楽で言えばクラシックとポップスくらいの関係で、大きく見れば同じ分野であり、どちらも素晴らしい。クラシック(ページマンガ)の作家は最初からポップス(ウェブトゥーン)に対応しやすく、逆はなかなか難しい、というのも共通点ですが、それくらいの違いがあると考えています。

ーー「ポップス」にも作法があり、その意味でLINEマンガ インディーズには編集者がついているというのが大きいですね。

 そうですね。LINEマンガ インディーズには、専門学校で講師やプロ漫画家のアシスタントをやっていた者もいますし、元アニメーターの編集者もいます。さまざまな視点からサポートできるメンバーがいて、基本的には作品に寄り添うというスタンスですが、相談があればいくらでもアドバイスが可能です。

 作家さんと話をしていると、ページマンガを描かれていた方が一番恐怖に感じるのは「引き算」です。ヒット作『女神降臨』などを見ていただいても、背景がないコマがあるのですが、それをするのが怖いと。これでマンガが成立するのか、という感覚もあると思いますが、ウェブトゥーンは表示領域が基本的にスマートフォンサイズなので、背景があることで逆に読みづらくなってしまうこともある。視線を散らばらせないためにも、必要なものはセンターに置き、ときに背景も省く必要があり、そういう面については、私たち編集者がアドバイスをすることがあります。

報奨金給付プログラムへの思い

ーー作家にとってのマネタイズという面では、LINEマンガ インディーズには「報奨金給付プログラム」が新たにスタートし、こちらも他社には見られない大きな取り組みです。

 もともとやっていた「トライアル連載」は、12週間、原稿料をお支払いしながらトライアルいただくものです。これは連載いただく作品が、LINEマンガとマッチするかトライアルするという意味もありますし、私どもも一緒にトライアルさせていただきたい、というものです。また、初めて週刊連載をされる作家さんにとっては、実際に週刊連載が可能かどうかを試す意味もあります。新たに大きな施策として追加したのが、「LINEマンガ インディーズ 報奨金給付プログラム(βテスト)」というもので、まだベータ版ではあり、今後アップデートしていく可能性があります。

  これまでの新人賞や大賞、またトライアル連載とも違うのは、こちらが作家さんや作品をピックアップさせていただくのではなく、読者の支持を得ながら月間で一定の数字(“月間読者数”と“お気に入り登録数”)をクリアし、対象月内に新規話が2話以上投稿され続ければ、報奨金を持続的に得ることができるというものです。作家さんは運営側の意見を気にせず、とにかく読者さんだけを向いて、支持される作品を発表すればいい。その先にはトライアル連載や本連載、グローバル展開がある……という流れを作りたいと考えています。

 もちろんそこを目指さない作家さんもいると思いますので、報奨金給付プログラムだけである程度の収益を得ていただけるようにしたいと考えました。応募する作品については、既に発表済みのものでも問題ありません。

ーー音楽でいえば初期のボーカロイドシーンのような、“大人”が介在しないUGC的な盛り上がりが生まれそうです。

 実体験として、私は以前音楽の仕事をしていて、作曲でご飯を食べていきたいと考えていた時期があります。そのときに、「自分の作品を世に出すのって、こんなに大変なんだ」と思っていたんです。本当に多くの人の目を通さなければいけなくて、その目線は必ずしも世の中に向いているとは思えなかったし、そこで潰れてしまう才能が多くあるように感じていました。もちろん、マンガ業界も含めてそこで洗練されて生まれたヒットもたくさんあると思いますが、私の考えでは、もっと早い段階にオーディエンス/読者に判断を委ねる場があるべきだと。そういう思いから、トライアル連載や報奨金給付プログラムを設けています。

ーー担当がついたけれど何年もデビューできない、という話も聞くところですし、連載開始まで編集者の間では評価が分かれていたという大ヒット作もありますね。その意味で、まずは市場の判断に委ねる、ということで世に出る新たな埋もれた才能がありそうです。

 そうですね。もう一つ大事なのは、「LINEマンガ」というブランドが作家さんにとっていいものになることです。そのために、まずはスター作家さんを作っていくこと。『先輩はおとこのこ』で知られるぽむ先生など、素晴らしい作家さんが続々と生まれていますが、全世界で大ヒットする億万長者のような方がどんどん生まれていく必要があります。「少年ジャンプ」や「少年マガジン」のような“クラシックの名門”だけでなく、“ポップスの名門”としてもっと目を向けていただける存在にならなければと考えています。

 実は韓国では経済危機でページマンガの輸入や印刷が難しい、という背景があり、ウェブトゥーンが主流になっていきました。日本では今もページマンガも多くの方々に読まれていますが、さまざまな調査を見ても、読者にとってウェブトゥーンがかなり身近なものになってきています。あとは作家さんがウェブトゥーンに向いた物語を構想されたとき、表現方法の選択肢としてウェブトゥーンの制作を考えられるようきちんと情報を提供していかなければと考えています。

ジャパニーズ・ウェブトゥーンが生まれつつある

ーーローカライズされて日本に入ってくる人気作について、ジャンルがやや限られていることから、「ウェブトゥーンはこういうジャンルでなければヒットしない」「だから自分には向いていない」という偏った見方もあるかもしれません。

 そうですね。おっしゃる通り、ウェブトゥーンといえば異世界ファンタジーやロマンスファンタジーのイメージが強いと思います。ただ、私たちが最近「これがジャパニーズ・ウェブトゥーンだ」と思う作品として『氷の城壁』という青春ものがあります。『正反対な君と僕』でも知られる作者の阿賀沢紅茶先生はLINEマンガ インディーズ出身なのですが、これこそスタジオではなく、作家さんによるウェブトゥーンだと考えています。輸入されたウェブゥーンとは全く違う世界観で、これはぽむ先生にも通じるところですね。スタジオ制作ではなく、あくまで作品力で勝負ができる、ということが実証できています。あとは、才能のある作家さんがどれだけウェブトゥーンに興味を持ってくれるか、というフェーズになっていくと思います。

ーーウェブトゥーンが、作家が持つ多様なアイデアの受け皿になれる表現形式なんだ、ということが伝われば、状況が変わりそうですね。ちなみに、日本のウェブトゥーンでおすすめの作品はありますか?

 ぽむ先生の連載『ノアは方舟』はぜひ読んでいただきたいですね。一見ユニークなキャラクター設定で、非常にインパクトがあってキャッチーですが、そこで描かれているのは、リアルな人間の心のひだに触れる普遍的なもので、公開初日から読者の皆さんに熱量の高い反応をいただけています。

 もうひとつは、インディーズ出身のまるやままな先生による『この子は弟です』。どちらかと言えばオーソドックスな恋愛マンガですが、30歳で婚活中の主人公が、1話目で血の繋がっていない18歳の弟とキスをしてしまう……という、“つかみ”が重要なウェブトゥーンのメソッドも押さえています。すでに高い人気があり、実写ドラマ化なども期待できそうな作品です。

ーー最後に、ウェブトゥーンというシーンは大きな変化の途上にありますが、中長期的に考えて、どんな世界を実現したいですか。

 あくまで私の考えですが、最終的には事業者が介入せずに作品が収益化できるような選択肢も生まれることが、作家さんにとっても、多様な作品を楽しみたい読者にとっても理想だと思います。そのなかで私たちの使命は、プラットフォームとしての機能を充実させ、どんなにニッチな作品でもしっかり読者に届けられる仕組みを整えること。そこで消費者から得られた利益を作家さんに分配することで、報奨金給付プログラムの究極系のような形になれば、新しい世界も見えてくると考えています。

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