なぜ若者は「ゆるい職場」を辞めてしまうのか? 働きやすい職場のジレンマ

若者が「ゆるい職場」を辞める理由

 近年、「働き方改革」などによって、若い世代の労働環境は大きく変化している。現場でのハラスメントなどのニュースは連日絶えず、課題は山積みであるかもしれないが、かつての長時間労働やパワハラが常態化していた昭和型企業の時代と比較したならば、相対的に改善しているということは、誰もが認めるところだろう。

 しかし、一方で若手社員の会社離職率は、むしろ上がっているのだという。なぜ、このような事態になっているのだろうか。最近の若者は厳しい環境を知らず、根気がないから? もしかすると、上の世代の多くは口には出さないまでも、そう思っているかもしれない。しかし、そこにはまったく違う事情があったーー。

 こうした問題提起のもと、若い世代の労働状況・価値観を鮮やかに論じた新書が刊行された。中公新書ラクレ『ゆるい職場 若者の不安の知られざる理由』だ。眼から鱗の事実がふんだんに詰まっていて、「働くこと」の最前線を知りたい人には、ぜひとも読んでほしい一冊である。

 著者の古屋星斗氏は、リクルートワークス研究所主任研究員、一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事として、学生・若手社会人の就業や価値観の変化を検証し、次世代社会のキャリア形成を研究している。

 まず本書では、ゆるくなったのは若者であるというよりも、職場なのだという観点を強調する。2010年代後半に、若者雇用促進法、働き方改革関連法、パワーハラスメント防止法などが整備される「職場運営法改革」が行われた。それによって大企業などは否が応でも職場環境を省みる必要があり、若手社員にとって働きやすい会社が増えることとなったのだ。

 実際、若手社員たちは「一度も叱られたことがない」「学生時代に近くて肩透かしなんです」といった意見を口にするのだというから、さすがに驚かされる。かつて厳しい新人時代を送った世代ならば、恵まれていると感じるはずだ。しかし時代の変化によって、新しいタイプの不安の声が生まれたのだという。それは今の「ゆるい環境」に身を置いたままでは、自分のスキルは身に付かずに成長できず、別の会社や部署では通用しない人間になってしまうという懸念だ。若手が離職してしまうポイントはそこにあった。職場環境が改善されたのは、もちろん良いことだ。その上で企業は、若手の育成環境をアップデートさせなければならないのである。終身雇用の制度がなくなりつつあり、より流動的な雇用の時代になったからこその不安だと言えるだろう。著者はそうした変化は、職業生活上の自由が生まれ、多様な生き方が推進されることの反映とも見ている。

 本書はさらに上司の観点からも、どうすれば良いのかを考察する。つまり、上司は若手のために最大限に働きやすい環境を作っていて、コミュニケーションでハラスメントをしないのはもちろんのこと、機嫌を取ったりするほどまで気をつかっている。それなのに、若手は会社をどんどん辞めてしまうのだ。これまでのように公私分け隔てなく詰め込みで熱血指導するといった選択肢もない。そんなジレンマに陥ってしまう。

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