文筆家・甲斐みのりが勧める東京巡りの極意「リアルに広がる映画やドラマの世界、物語を秘めたお店を見つけにいくのが楽しい」

文筆家・甲斐みのりによる東京案内

世間の評価ではなく自分の感覚を信じて

――各店舗や場所について、1ページでまとめるのは大変だったのではないでしょうか? もっと伝えたいことがありそうだと感じました。

 そんなことないんですよ。私はただ入口を作りたいと思っているだけなので。歴史や楽しみ方のポイントを伝えて、あとはそれぞれに任せたい。常に余白を残しておきたいんです。だから、正解を書いているわけではなくて。「乙女」という言葉からは連想しにくい居酒屋や競馬場を入れているように、自由でいいんだと感じてほしい。世の中が評価するものでなく、自分で価値を見出してほしいです。好みや味覚も人によって違うから、自分の感覚を信じたい。自由な価値観をもつと、もっと街が楽しめるんです。

――東京大学のビアガーデンなど、今営業していないお店も紹介されていますよね。


 私は常々、情報ではなく街の記憶や記録を残したいと思っています。普通の情報誌だと、閉店してしまったお店を載せるなんてあり得ないですよね。でも私は残していきたいんです。当時とお店の内装が変わったから写真を変えてほしいという要望もあるんですが、その写真にある、その時を残したい。

 池波正太郎や植草甚一の本に載っていたお店が今なくても、私は残念に思わない。むしろ知れて嬉しいです。自分もその時代に生きてみたかったと思いを馳せたり、行けないとしてもそれを無かったことにはしたくない。今の情報ももちろん大事ですが、10年、20年先にも残したいものを掲載しているんです。

 東京って常に生まれ変わっているし、どれも永遠にあるとは誰も言い切れないから、いろんな人が自分の記憶を自分の視点で語っていくことで、東京の歴史がどんどんつくられていくんだと思います。この本も、その一つになれたらと思います。

――その探究心やフットワークの軽さはどこからきているんですか?

 根底は、食いしん坊であること、貪欲であることが大きいですね。時代がミニマムやシンプルにといわれている中、自分は貪欲に生きたいんです。やりたいことはやりたい、見たいものは見たい、欲しいものは欲しい。仕事で地方に行っても、そのまま帰るのがもったいないと思うんです。必ずどこかに寄って、少しでも何か購入して帰りたいんです。そうじゃないと自分の気持ちが収まらなくて(笑)。

 高価なものにお金を使うわけではなく、好きなお菓子を買ったり、喫茶店に行ったり。その時間が自分を豊かにしてくれるし、それを積み重ねることで毎日が楽しくなるんです。行きたい場所がいっぱいあるから日々忙しいけど、まだまだ生きたいなって思いますね。

写真提供=左右社

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