『silent』『エルピス』人気ドラマのシナリオブックが続々登場 好調の背景はSNSでの“実況”や“考察“?

  


 2023年が明け、新クールのドラマが続々とスタートを切っているが、昨年末に最終回を迎えた2022年10月期ドラマの反響は今も広がり続けている。

 名作揃いだった前クールで特に注目を集めたのは、フジテレビ系のドラマ『silent』と『エルピス -希望、あるいは災い-』だろう。前者は歴代民放ドラマの見逃し配信記録を更新、シナリオブックは発売からわずか一週間で15万部を突破した。政治権力とマスコミの癒着というテーマに恐れず立ち向かい、大きな話題となった後者のシナリオブックも1月31日に発売される。

 シナリオブックは、映画やドラマ、アニメなど、映像作品のシナリオ(=脚本)を書籍化したもの。そこには「どんな状況で、誰が、何をしていて、何を喋っているか」が書かれており、ドラマのキャストやスタッフの視点から作品世界を楽しめる。また、各シナリオブックには実際の放映ではカットされた未公開シーンのシナリオや脚本家やプロデューサによるあとがき、撮影現場の裏話などが収録されており、作品のコアなファン層の間で愛されてきた。

 過去にシナリオブック化したのは、野木亜紀子脚本の『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系、2016年)、『MIU404』(TBS系、2020年)、坂元裕二脚本の『カルテット』(TBS系、2017年)、『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系、2021年)、岡田恵和脚本の『ひよっこ』(2017年、NHK総合)、大島里美脚本の『凪のお暇』(TBS系、2019年)、安達奈緒子脚本の『きのう何食べた?』(テレビ東京系、2019年)など、やはり一定数の売上が見込めるヒット作がラインナップに並んでいるが、近年になればなるほどシナリオブック化されるケースは増えている。

 その理由の一つとして、ここ数年で、SNSを使ったドラマの“実況”や“考察”が活発になったことが挙げられるのではないだろうか。NHK連続テレビ小説=朝ドラを中心に、いまやドラマを観ながら、「#番組タイトル」のハッシュタグとともに感じたことをSNSで呟くことが当たり前となった。「あの俳優さんが素敵」「あのシーンに感動した」といったシンプルな感想のみならず、ドラマの内容について考察したツイートも度々見かける。

 考察にも様々な種類があり、『あなたの番です』(2019年、日本テレビ系)や『最愛』(2021年、TBS系)など、ミステリーやサスペンスの結末で描かれるであろう犯人や真実を事前に予想したものから、一見事件性のない日常ドラマでも、のちの展開に繋がりそうな登場人物の言動を深読みするものもあって、その観察眼に驚かされることもしばしば。ライターや評論家以外も自由にドラマを語れるようになり、また内容自体もどんどん洗練されていっているため、いかに「なるほど!」と思わせる内容を呟くかという“考察合戦”の様相を帯びることもある。

 テレビ局側もそうした視聴者の動きには自覚的で、ドラマの内容自体も年々複雑化しているように思える。後の展開に繋がる要素をあらかじめ物語に散りばめておき、実際に後の展開でその要素を拾い上げる伏線の回収で視聴者をあっと驚かせる鮮やかな構成。その上で権力の腐敗、女性蔑視、ハラスメント、マイノリティ差別、貧困など、今の世の中が抱える社会問題についても心に残る台詞とともに問いかける社会性の高さが近年ヒットしたドラマには共通する。実況や考察を好む熱心なドラマファンに向けた、いわば消化に時間はかかるが、噛めば噛むほど味のある作品が増えていると言えるだろう。結果として、自分のペースでじっくり物語を追うことができるシナリオブックが売れるのではないか。

 前クールでシナリオブック化した『silent』と『エルピス』に関しても、観る人を飽きさせない緻密な構成と心の琴線に触れる台詞の力が光るドラマだった。『silent』は聴者とろう者の恋を題材として扱いながらも、そこで描かれていたのは脚本を手がけた生方美久が言うように「“想い”と“言葉”がどうつながっていくのか」ということ。言葉は万能ではないけれど、諦めず対話を続けていくことの大切さが、新人だからこそ描ける、さりげない伏線と等身大でなおかつ奥深い言葉を散りばめた脚本の中で説かれた。

 一方、寡作で常に最新作が待ち望まれている脚本家・渡辺あやが手がけた『エルピス』は実在する事件に着想を得た“冤罪”という重厚な題材を見事に扱った。真実を追い求めていく主人公たちを安易に“正義”とするのではなく、圧倒的な権力を前にしたら保身に走ってしまう人間の弱さを二転三転する展開とともに描き、リアリティとエンタメ性を両立させた。重く受け止めたい台詞も多く、観た人がかなり後を引くドラマに仕上がっていたのではないだろうか。映像では見逃してしまいがちな細かな情景描写が文字としてダイレクトに伝わってくるため、新たな発見も多々あるシナリオブックでぜひもう一度奥深いドラマの世界をのぞいてほしい。

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