Mika Pikazo 人気イラストレーターが創る世界を吉上亮、三雲岳斗が小説化「10代の多感な時期のことを作品に込めている」

Mika Pikazoの世界観を小説化

 VTuberの「輝夜月」や人気ゲーム「Fate/Grand Order」のキャラクターデザインを手がけるイラストレーターのMika Pikazoが創造した、『RE:BEL ROBOTICA -レベルロボチカ-』の世界が小説になって登場した。

 今作はIP開発プロジェクトであるAAO Project(※)から生まれた作品。その世界観、キャラクター設定などの監修・制作協力のもと、『PSYCHO-PASS サイコパス』シリーズの脚本を手掛けるSF作家の吉上亮、『ストライク・ザ・ブラッド』で知られる小説家の三雲岳斗が書いた2つの物語、『RE:BEL ROBOTICA 0-レベルロボチカ 0-』と『RE:BEL ROBOTICA -レベルロボチカ-』(共にMika Pikazo/ARCH原作、新潮文庫nex刊)は、AR(拡張現実)やMR(複合現実)が一般化した世界で出会った人間の少年とAIの少女が、近未来ならではの不思議な出来事を解決していく青春&冒険SFアクションになっている。

(左から)『RE:BEL ROBOTICA -レベルロボチカ-』『RE:BEL ROBOTICA 0-レベルロボチカ 0-』(共にMika Pikazo/ARCH原作、新潮文庫nex刊)

 『RE:BEL ROBOTICA -レベルロボチカ-』の世界はどうして生まれたのか。キャラクターデザイナーやイラストレーターとして大切にしていることは。そんな質問にMika Pikazoが答えてくれた。

―――『RE:BEL ROBOTICA -レベルロボチカ-』で最初に浮かんだのはMRやAIといったSF的な設定ですか。それともキャラクターですか。

『RE:BEL ROBOTICA -レベルロボチカ-』の舞台は2050年です。その時代に高校生くらいの子が生活していたら、どんな毎日を送っているんだろうとまず思いました。AIでロボット的なリリィがどういう理由で存在していて、タイキはどうしてリリィと出会うことができたんだろうか。それが最初に考えたことですね。

―――MRが普及した世界でバグった人間にしか見えないAIの少女がいる、というSF的なアイデアはどこから生まれて来たのですか。 

 VTuberのお仕事をいただいたのがきっかけです。今ほどVTuberという存在が知られていなかったころで、キャラクターなのに生きているような存在だということに刺激を受けました。キャラクターがVRとかARとかに展開されていくところも面白くて、こんなテクノロジーがあるんだと気づいて。自分はキャラクターデザインをすることが多くて、そこでキャラクターが生きている、存在しているということがあったら嬉しいなと思っていたんです。VTuberはまさにキャラクターが実現するという存在で、自分としての夢の出会いでした。

―――キャラクターに生命が宿って動き出すような感じがVTuberにはありますからね。

VTuberが意思を持って存在していて交流できたら楽しいなって思いました。それで2017年の夏コミで『レベルロボチカ』のキャラクターや設定を描いた同人誌を出したら、ARCHの瀬島さんが「面白そうだ」と言ってくれて、プロジェクトが立ち上がりました。

―――今回『RE:BEL ROBOTICA 0 -レベルロボチカ 0-』を書いた吉上亮さんはそこで加わったのですか。

 自分で大枠を書いたところで吉上さんを紹介していただきました。『PSYCHO-PASS サイコパス』に関わっていた方ということは知っていました。その吉上さんと『レベルロボチカ』をどう肉付けしていくかを毎週話して、「こうやったら良いんじゃないか」といった感じで作っていきました。吉上さんと自分とでは思っていることが合致しているところが多くて、お互いにアイデアを言って「これ良いねえ」と追加していった感じです。むしろ自分がセーブしていたところがあって、これくらいで良いのかなと思っていた部分を、吉上さんはしっかりと膨らませて描いてくれました。

―――吉上さんのSF作家ならではのアイデアが加わっていった感じですね。

 ロボットの表現や機械的なものの表現で、こういう気持ちで動いているんだという主張が吉上さんにはあって、そこに強い信念を感じました。機械を機械として描くのではなく、機械であっても人間的なところに注目して、センチメンタルな部分を描かれるのが巧いんです。自分もそうしたセンチメンタルな部分を描けたらと思っていました。実は、吉上さんに褒められて嬉しかったことがあるんです。キャラクターのセリフで、喋りそうだなということをちょこちょことメモで送っていたら、「そこの表現が良いね」と褒めてくれました。

―――『RE:BEL ROBOTICA -レベルロボチカ-』を書かれた三雲岳斗さんの方はいかがでしたか。

 三雲岳斗さんは吉上さんと出会ったあと、知り合いに紹介してもらいました。三雲さんが入っていただいた時はもう、『レベルロボチカ』という作品は設定がほぼ仕上がった状態でしたが、そこで三雲さんがここはこうしたら良いんじゃないかと色々言ってくれて、ストーリーに一本筋を通してくれました。

―――吉上さんとは違った持ち味を感じましたか?

 自分がキャラクターを作ろうとすると、ニュートラルにバランスをとって型にはまったものにしがちなんです。優しめに作ってしまう、という感じでしょうか。それを三雲さんは、このキャラクターはこう描いた方がいい、こういう展開の方が良いんじゃないかと、どんどんと物語を膨らませてくれました。ある意味で漫画的というか、キャラクターを表現によってお芝居させるのが巧いんです。

―――お二方が書いた小説版『レベルロボチカ』をどう思われましたか。

 それぞれが違うベクトルを持っていて、どちらも大好きです。吉上さんはキャラクターの感情表現がとても良くて心に刺さるんです。高校生くらいの男の子女の子の繊細な感情を表現してくれるところが好きです。不安定な部分も含めて、その年齢ならではの人間像を描きたいと思っていたので、そこをちゃんと出していて、読んでいてキャラクターのセリフが感情に訴えかけて来るんです。色々なキャラクターがいて、それぞれが抱えている描写を強める展開になっていたところに、三雲さんは、主人公がタイキであり、タイキが出会うのはリリィだというメインのテーマを、しっかりと通して読ませるようにしてくれました。

―――タイキというバグってしまって恩恵を受けられないキャラクターはどこから生まれたのですか。

 自分がタイキを通して見せたかったのは、多感な時期にいろいろと感じるところがあるということです。自分だけがこう感じているのに他の人は違うことを思っているとか、自分が考えていることを他の人には気づいてもらえないとか。10代のそういった断絶めいた悩みは、もの凄く焦りになります。自分だけが違うんじゃないかといった焦りと不安。そういうのをタイキには入れたいと思ってました。バグっているというのはそういうことを表しています。

―――だからといって自暴自棄にならず頑張って生きている感じがあって惹かれます。

 タイキの場合、一緒に行動したりして触れあっているキャラクターによって変化します。タイキだけでなく、アサトやくるみといったキャラクターにも、それぞれに見えていないものがあったりします。そんな他人に干渉して触れあっていくことが生きていこうとする力になるんです。自分もアサトやくるみのような存在に10代の頃に出会えていたら良かったなって思うことがあります。くるみやアサトは自分が出会いたかった、こんな人がいたら良いねっていう像なんです。

―――キャラクターの設定には深いところまで関わったと聞いています。

 このキャラクターは何が好きとか嫌いとか、兄弟はいるのかといった4人の資料を細かく作っていて。吉上さんと三雲さんがそれをとても良く拡大してくれました。キャラクターを描く上で意識したのは、自分自身がそのキャラクターになりきることです。深く考えるというよりは、自分がキャラクターになりきって、文章を埋めていくんです。気分がのっていくと、だんだんと文体が自分の文章ではなく、キャラクターが喋っているような感じになっていくんです。

―――いっそ続きをご自身で書いてみるとか……

 昔、小説を書いてみたいなと挑戦したことがあるんですが、作家さんに求められるような独特な表現はできなかったんです。自分が考えられるのはキャラクターが考えていることや喋りそうなセリフで、このキャラクターはこういう時にこういう態度をしそうだなと妄想するくらいでした。吉上さんたちと喋っていて、小説家ってイラスト以上にキャラクターの内面に踏み込むんだと驚きました。自分が作ったキャラクターをここまで解釈してくれる、何気ない部分を理解して膨らませてくれるというのがとても嬉しかったですね。

―――2冊出た文庫ではいずれも表紙のイラストを手掛けています。それぞれに印象が違いますね。

 『レベルロボチカ』という作品を店頭に並べた時、同じようなイラストだとわからなくなってしまいます。それぞれの作品に合わせて表紙のイメージを変えています。吉上さんの『RE:BEL ROBOTICA 0-レベルロボチカ 0-』は感情が強く出ていたので、それを拡大していく感じでキャラクターを強めにしました。三雲さんの『RE:BEL ROBOTICA -レベルロボチカ-』はストーリーと世界観が感じられるような全身像で、色も少し抑えた感じにしています。

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