売れ筋ビジネス書、なぜタイトルに「教養」入る? 背景に「知らない」へのコンプレックス
「この話は『ファスト教養』刊行後によく言われることなので、改めてちゃんと意見を表明しておきたいです(笑)。大前提として、そのジャンルのポイントを教えてくれる優れた入門コンテンツは積極的に活用するべきで、「なんでも原典に当たれ」「最初から専門書を読まないとダメ」というような極端な話はしていません。今指摘したいのは、『教養としての○○』といった本が提供しているのは「入口」ではなく「これさえわかっておけばOKという出口」なのではないか、ということです。「2時間でこの領域について語れるようになります」といったことを謳う本が果たして濃い世界への入門として本当に機能するのか、それを読んだらそのジャンルについて考えることはもうないのではないか、というのは冷静に考える必要があると思います。『ファスト教養』では「仕事のために勉強したことがその後自分にとって好きなものになったことはない」というビジネスパーソンの声を紹介しました。目的から逆算して仕入れる知識から新しい世界が広がるケースは少ないと思いますし、ファスト教養的なコンテンツの多くはこういう利用シーンに最適化されたものに見えます。
効率的に何かを知りたいという欲望は程度の差はあれどの世代にもあるはずですし、それは決して否定されるべきことではありません。ただ、「その情報は正しく効率化されているのか」「効率化される過程でカットされる部分に意外な面白さがあるのではないか」という視点を忘れてはならないと思います。情報を圧縮したうえでその奥深さも損なわないコンテンツとはどういうものなのか、社会全体で考えていく必要があるのではないでしょうか」
ビジネスパーソンのための本当の「教養」とはなにか、一度立ち止まって考えてみることが必要なのかもしれない。