orange、ちはやふる、GLITCH……“転校生”が深い印象を残す漫画といえば?
今年も夏休みが近づいている。筆者の話となってしまい恐縮だが、夏休み前に転校をする生徒、そして夏休み明けに転校してくる生徒を多く目にしてきた。転向/転居に際し、長期の休みは都合がいいのかもしれない。春と並び、夏を別れと出会いの季節と感じる人も少なくないのではないか。
他方で、天候の当事者になったことがある人は少数派ではあるだろう。夏休みが迫るこの時期に、転校することとなった彼ら彼女らはどんな思いを抱いていたのか。本稿では、転校生の姿が描かれる漫画作品の一部を振り返っていきたい。
『orange』
2015年まで『別冊マーガレット』(集英社)や『月刊アクション』(双葉社)で連載され、実写映画化やアニメ化も果たした『orange』。連載中の物語を収録した第5巻が発売したあとも番外編となる物語が描かれ、2022年にはコミックス第7巻が発売された。
本作の重要人物として描かれる少年・成瀬翔は、東京から物語の舞台となる長野県松本市へ転校してきた人物だ。作中では女子高生・高宮菜穂のもとに10年後の自分が書いたとされる手紙が届き、その文面には10年後に翔が存在していないことが記されていた。転校生であり、異性として好意を抱く翔のため、菜穂は奮闘することとなる。
転校生として菜穂たちの前に現れたばかりの翔はどことなく表情が暗い。ただ菜穂たちが翔との心理的な距離を縮めようと交流し、翔がはじめて笑顔を見せた際には菜穂たちは驚くとともに喜びを見せた。
東京と長野という物理的に距離のある土地へ引っ越し、様々な不安を覚えていた翔。平日の大半を過ごす学校のなかで友人ができるかといった不安は子どもにとっては相当に大きいものであろう。
ときに引っ越しすることとなった家庭の事情も絡むことで、転校に対する不安はより大きくなる。そんな転校生特有の不安、そして心優しい友人たちによって不安が解きほぐされる過程を『orange』は描いていたのではないだろうか。
『ちはやふる』
『orange』と同様に転校生の抱く不安や実情は、実写映画化やアニメ化を果たした『ちはやふる』でも描かれているだろう。
競技かるたを題材に社会現象を巻き起こした本作は、少女・綾瀬千早がかるた界の“名人・クイーン”を目指し奮闘する姿が描かれる作品だ。物語の序盤は千早たちが小学生であったころの物語が描かれており、この幼き日の思い出が競技かるたに精を出す千早のルーツとなっている。そして千早にかるたとの接点を与えたのは転校生・綿谷新であった。
『orange』とは対照的に新は福井から東京へ転校してきた少年であるが、とくに物語序盤においてはクラスメイトとなじむことができていない様子が描かれており、「おやつに虫を食う」といったデマを口にする生徒も現れている。(本人が集団に溶け込むことを望んでいるかは定かではないが)ある程度コミュニティができあがっている集団に溶け込むことのむずかしさは、転校してきた子どもにとって相当なものであろう。