『サマータイムレンダ』『子供はわかってあげない』『花と頬』 梅雨明けで読みたい“ひと夏の物語”たち
『花と頬』
「第23回文化庁メディア芸術祭マンガ部門」新人賞に選ばれた『花と頬』。ある夏の日に女子高生・鳥井頬子は転校生の男子高校生・八尋豊に自身の父がミュージシャンであることを推測される。八尋は頬子の父が所属する音楽ユニット「花と頬」のファンであった。この日を境にふたりは図書館で筆談をしたり、一緒にでかけたりするようになり、次第に頬子は八尋を異性として意識するようになる。
淡々と過ぎていく夏の日々と共に描かれるのは、登場人物の心情の揺れ動きだ。
あの人は近くなるたび どんどん遠くなるのがわかる
本作の中心人物である頬子の抱く「八尋は父(ファンであるアーティスト)の娘として自身を見ているのではないか」という不安、自己と他者の“愛してる”のかたちが異なることへの戸惑いーー。頬子の繊細で波のある心の様子は、まるで涼しくなると夏が恋しくなるような、過ぎ去ってしまった思春期特有の心になつかしさや愛おしさを覚えるはずだ。
また本作で描かれる踏切の警報機や野球少年の背中などには、つよい日差しの逆光となり現れた影が描かれる。作者であるイトイ圭氏がつくった“日陰”の存在から、太陽が照り付け、入道雲が立ち昇る、夏特有の空気感を覚えることもできるだろう。
本稿で挙げた作品の他にも、ダイビングサークルに所属する大学生たちの姿を描いた『ぐらんぶる』、『MAJOR』や『ダイヤのA』といった野球をテーマにした作品でも、一度限りの夏の輝きを感じられるだろう。そんな漫画を読み、「今年の夏休みには何をしようか」とワクワクしながら考えていた小学生のころのように、気持ちを高めてみてはいかがだろう。