【漫画】クラス全員が仮面をつけた異様な世界……『遥かなる空』が描く同調圧力からの解放
空は誰も拒絶しない
――なぜ『遥かなる空』を制作しようと思ったのですか?
腹ぺこララバイ:そもそも今から9年前の中学3年生の時、友達が先生の前と私の前では人が変わったかのように接し方を変えていることに面白さを感じており、まるで“仮面を切り替えている”ように思えました。そして、昨年に「漫画賞に投稿してみたいな」と考えていた際、「題材としてふさわしいな」と思い、この仮面の世界が舞台の作品を描くことにしました。
――誰もが普段から「マスク」をつけるようになった、コロナ禍という状況にもフィットした作品になりましたね。
腹ぺこララバイ:そうですね。コロナ渦でマスクをするのが当たり前になった現代、このお話の世界観はもはやファンタジーではなくなり、「今こそ、この話を描こう」と思い、取り掛かりました。残念ながら受賞はできませんでしたが、読んでいただいた方から「面白かった!」と言っていただけたので、制作してよかったと喜んでいます。
――現代社会を風刺するユーモアも魅力的な作品でしたが、腹ぺこララバイさんは本作にどのようなメッセージを込めましたか?
腹ぺこララバイ:私を含め、他者から嫌われることを恐れ、仕方なく空気を読んでいる人は多いです。ただ、空は私が善人だろうが悪人だろうが関係なく、平等に扱ってくれます。例えば、空に向かって暴言を吐いても晴れているし、「大好きだ!」と告げても雷雨を降らせることもあります。結局、空は空のまま、何も変わらない。だから大きな意味では、空からは拒絶されず、拒絶という概念が空にはない。このことを知った時、私は救われた気持ちになり、“他者にとっての良い人”になれない自分を受け入れられるようになりました。
ですので、「人間社会で拒絶されても、空には拒絶がない。だから、どんなに家族や友人、恋人との繋がりがなくなっても、空とだけは繋がりがある」というメッセージを込めました。読んでくださった方には、そのように感じてほしいと思っています。
名前がない=誰でもない
――仮面をつけない二葉は異質な存在でしたが、物語上の位置づけについてお聞かせください。
腹ぺこララバイ:二葉は“唯一名前のある存在”と捉えていただきたいです。本作では、ちゃんと本名が明かされるのは彼女しかいません。これは意図的な演出で、“名前がない=誰でもない”という意味を込めています。周りに合わせて自分の表情を作り、集団に溶け込んでいる他の登場人物は、もはや個人的な気持ちや思想はありません。
あえて強い言葉を使うと、“名前のない人たちの群れ”といっても過言ではないでしょう。そんな中、自分の気持ちを真っ直ぐに伝えようとした二葉だけが、自分という人間を表に出しているため、彼女には名前があるのです。
――今後はどのような作品を制作していきたいですか?
腹ぺこララバイ:基本的にはこのまま趣味で創作を続ける予定です。私の作品は、いろんなことで悩める方、苦しむ方、寂しい方に届いてほしいと思っており、無料で誰の目にも止まってもらえるように、SNSを中心に活動をしていきたいです。
また、ウクライナ情勢を受け、「今一度戦争について考えてみることが必要なのではないか?」と思い、漫画は戦争を題材にしたものを制作中です。「戦争反対!」と、説教臭く語るつもりはなく、「ただただ人の死を悼み、愛する人を思いやる心を忘れないようにしよう」という内容にする予定です。次回作も、よかったらチェックしてもらえると嬉しいです。